二 天使・告げる

 見上げるようにして睨みつけた先には、金髪碧眼の男が浮遊していた。背中からは白鳥を思わせる純白の翼が生え、同様に汚れの一切ない白い衣服をまとっている。

 〈悪〉とは正反対の色を持ち、正反対の役目をもつ存在──天使。

 悪徳の具現化によって発生するようになった〈悪〉から人間を守るため、神によって創られたものだ。白い翼は飛翔のための器官ではなく、純潔の象徴として天使の背中にあるだけで、現に浮遊している天使がはばたく様子は見せていない。

「序列四位〈主天使〉の一柱。三日前に発生した〈悪堕ち〉の破壊を任として下界に降りている」

 天使は坦々と自己を語る。

 肩で息をしながらも、シルヴィは口角をつりあげて苦笑。深く呼吸をして息を整え、天使をまっすぐに見据えた。

「教会もないような村で育った私が、序列なんて言われて理解するとでも?」

「〈悪堕ち〉くらいは理解しているだろう、人間──否、〈悪使い〉」

 言って、天使は表情を変えずに首をかしげる。

 人間と関わることの多い天使は、両者の間で交わされる会話を円滑に進めるため、人間の容姿や行動を徹底して模倣している。

 故に、動作ひとつひとつに何かしらの意味が含まれているわけではない。感情などを持つこともなく、鏡像のように人間の動きをまねているだけだ。

「本来〈悪〉となるべき悪徳を身の内に封じ、〈悪〉となるべき力をふるう人間を、今更罰することなど考えてはいない。ただ、そうして生まれた〈悪使い〉が悪徳を封じ続けることができなくなった場合、通常の〈悪〉より強くなる」

「だから天使様の獲物を人間ごときが奪うな、と?」