第二章

 つまるところ、「恋に落ちる」前の梶宮と同じ、未発達な感情を持て余しながら日々を送る堕天使なのだった。

「そりゃな、俺らにとっちゃあ、しっかりした感情を持てるのはイイコトだろうよ。なにがしたいとか、なにが欲しいとか、そういう具体的な欲求にもならねぇような、中途半端な願望だけじゃあどうにもならないんだからな」

 岡野は投げやりに言って、ベンチの座面の背もたれ側を掴んで腰をずらす。ポップコーンやらパンフレットやらに気を取られている通行人が多いためか、足はしっかりベンチの下に折りたたんでいる。

「知ってるだろ。天使が人間に手ぇ出したらどうなんのか、ってことくらい」

 それこそ、神話の時代。

 天使は今よりも気軽に地上へ降りることができた。神の教えを説き、人を善い方向に導き、奇蹟を体現するという役目をともなって。

 ただ。天使たちは、地上に降りて役目だけを遂行するには、純粋すぎて賢すぎた。

「天使だって、人間の女に手を出せば堕天するんだ。手を出すどころか、人間に化粧と武器を伝えて両目をえぐられたバカだっている。つうか、お前、自分の持ってるチカラってのを、理解してはいるんだよな?」

 天界に生きる天使たちがなにも考えずに役割を遂行できるのは、そこが天界であるからに他ならない。

 地上に満ちあふれる欲求の数々を前にして、興味も持たずにいられる天使の数は少ない。現に、元・キューピットの堕天使は、日本国内だけでも十に近づいていると聞く。彼らの共通点は、全員が孤独だということだ。