本論三・バカと天才は紙一重だ。

 上下が逆さまになった視界で、オキツグは散り散りになった小さな黒炎を注視する。

 子機が後ろから追うのではなく、壁となって本体を守る。〈ワシリーサのしるべ〉は、相手に合わせて作戦を変えてきたらしい。

「いいだろう、〈ワシリーサのしるべ〉──後を追うことも、前に立ちふさがることも、どちらも無駄であることを教えてやる」

 オキツグの右目が黄緑色にきらめく。

 遠慮なく黒炎をまき散らすミニチュアたちは、スピードはそれほど出ないが火力だけで十分な脅威である。オキツグは戦うための魔法も守るための魔法も作ってはいない。

 ただひたすらに駆ける。〈ワシリーサのしるべ〉のミニチュアたち突進しようが火柱を吐こうが、避けてかいくぐり迂回して、ただひたすらに駆け抜けるしかない。

 もしそれができなければ──と、思考が仮定を始めようとしたところでオキツグは鼻を鳴らした。

 最速のマシンの前に障害はつきものだ。どんな悪路でも最高のスペックを出せなければ、最高の乗り手にはなりえない。

 自分が自分のために作りあげたマシンを、どうして裏切ることができるだろう? たかだか一撃必殺の火柱程度、恐れるに値するだろうか?

 ハンドルとペダルからこの身を引きはがされなければ、その死に恐怖する必要はどこにもない。

「行こうか、ライジング・フリー。最高のレースにしようぜ!」

 太陽を守る頭蓋骨の群れに、学園最速はためらいなく突き進む。