本論一・バカにつける薬はない。

 しかも、その理屈が通用すると本気で思っているらしいのだからタチが悪い。

「時に、カネミツ」

 だから、というべきか。

 オキツグは常に、自分のペースで会話を成り立たせる。

「とうとうオレたちの学年にも落第生が出るらしいぞ」

 内容に反して、口調はあっさりとしていた。

「とうとう、って……まだ二年だろ? 早すぎないか?」

「二年だからこそ、だろう」

 オキツグは見た目に反した几帳面さでレポート用紙を三つ折りにすると、そのまま上着の内ポケットに収める。

 彼の言葉は、他人から見てふざけていようと大真面目であろうと、全てが本気である。

 その性質を知っているからこそ、カネミツは内心で首を傾げざるを得なかった。オキツグは基本的に自分本位な人間であって、そこらの他人に興味を持つことなどほとんどないからだ。

 ましてや、落第生などという、言ってしまえば他より劣っていると思われても仕方のない人種に興味を持つような野次馬精神など持ち合わせていないと思っていたのだが。

「これからは魔法を作る側にまわらなければならないんだからな。適性のない人間は少なからずいてもおかしくはない」

 思わず、カネミツは周囲を見回した。

 普段は多くの学生が集う談話室は、レポートの提出期限が間近に迫っているためか人影がまばらだった。その上会話よりもペンの音が目立っているほどなのだから、いっそ自習室になりはてていると言っても過言ではない。

 しかし、その現状に不満を持っている人間など、全体の一割にも満たないはずだった。