本論一・バカにつける薬はない。


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 学園都市・ワシリーサの空には、巨大な頭蓋骨が浮いている。

 一般的な一戸建て程度なら悠々と収まってしまいそうな頭骨の中には、あふれそうな大きさの火球が収まっていた。時折、ぽっかりと開いた眼窩や歯の隙間からこぼれた火の尾が、蛇の舌にも似た動きで空気を舐める。

 生活律動調整及び防衛機構〈ワシリーサのしるべ〉──大仰かつ長い名前のついている頭蓋骨ではあるが、地下都市でもあるワシリーサにおいては、もっと単純な呼ばれ方をすることが多い。

 生活に必要な明かりを提供し、昼と夜の明暗差と温度差を生み出すもの。

 すなわち、「太陽」である。

「頭蓋骨の形した太陽とか、よくよく考えたら不気味だよな」

 窓越しに〈ワシリーサのしるべ〉を見上げながら、カネミツは特に意味もなくぼやいた。

 前日降った雪により、地下都市は白く彩られている。必然、窓から見える景色も相応に寒々しい色合いになっているが、過度な積雪がもたらす都市機能への影響を考慮してか、今日の太陽は若干火力が高くなっているようだった。

 ──あるいは、町のあちこちにできている、小さな円形や長い直線状の除雪地帯をごまかすためかもしれないが。

「分かってないなカネミツ。炎を内包した頭蓋骨がいつでも見上げられる場所にあるなら、そこに学長からのメッセージが込められていると考えるべきだろう。すなわち燃え盛る炎のごとき探究心と向上心を各々の頭蓋の中に」

「頼むから俺に現実逃避をさせてください!」

 言わずもがな、カネミツの隣で熱弁を振るいかけたのは、彼のルームメイトである厨二病患者・オキツグだ。