第四章

「半壊一棟、一部損壊一二棟、道路の陥没──と、街灯のいくつかの破損。想定したよりも損害はかなり軽微だ。ペストの特性をかんがみると、周辺の建造物は全てメンテナンスが必要だがな」

 平坦な合成音声に気づいて、ヴィオレは目を覚ました。

 鼻につく薬品臭に混じって漂っているのは、柔らかいハーブの香りだ。それだけで今いる場所を悟ったヴィオレは、起きあがろうとして体に走った痛みに思わず呻いた。

 耐えられないほどではない。けれど、全身余すところなく響き渡っていく痛覚は、次の挙動を慎重にさせるのに十分すぎる。

「まだ動いちゃ駄目だ」

 軽い足音を慌ただしく鳴らして、ヴィオレの視界に白衣が入り込んだ。顔をわざわざ見上げるまでもない。

 研究室にハーブの香りを漂わせている科学者など、浅間には御堂しかいないのだから。

「内臓損傷、亀裂骨折を始め、ありとあらゆる部位にガタがきている。超振動がもたらす衝撃に加え、あれだけ無茶な動きをしたならなおさらだ」

 白衣の後ろから聞こえる合成音声は、ヴィオレの新しい記憶と比べればかなり冷静さを取り戻しているようだった。ベッドの右側、御堂の作業場に置いてあるパソコンのスピーカーから聞こえてくる。

 二人の関係はどうなったのだろう、とヴィオレはふと思った。目的が共通しているようで、どこかすれ違っているこの二人は、和解することが果たしてあるのだろうか。

「どのくらい……経ってるの」

 乾いた口で、どうにか声を出す。ヴィオレ自身言葉の不足を理解しているが、それだけでも喉がひりつくし肺が痛む。