第四章

 手早く乗り込むと、すぐさま扉は閉まって上方へ。その間に若干上がった息を整えていると、不意にレゾンから通信が入った。

「フードをかぶっておいた方がいい」

「え?」

「人に気圧されるかもしれない。心の準備をしておいてくれ」

 ヴィオレは顎を引き、無線を着けたきり下ろしたままだったフードをかぶる。

 思えば、服を着ているのにフードを下ろした状態で廊下を走ったのは初めてだったかもしれない。視線を感じている暇はなかったし、そもそも相手だってそれだけの余裕があったとは思えないが。

 エレベーター内に備え付けられた見慣れないボタン類に目を向けていると、いつもよりはやく箱が減速を始めた。

 完全な停止のあと、一呼吸置いてレゾンが重ねて言う。

「気を確かに持て」

 音もなく開いた扉の向こうから、まず現れたのは喧騒だった。

 それがなんなのか、ヴィオレは最初分からなかった。やがて、たくさんの人が集まったときに生じる声や音の重なりだということに気づかされる。

 押し寄せる人の波が、そこにはあった。

 年齢も性別も問わない、服の色も問わない、ただ髪と目の色だけは全て黒い人間たちが、エレベーターの前に集まっていたのだ。扉が開いたことで騒ぎ出した十数名に引きずられるように、喧騒は勢いを増す。

 浅間にはこれだけの人間がいたのか。ヴィオレの知らない浅間の中層が、いま目の前にあった。

「圧されるな、ヴィオレ。これでもほんの一部だ」

 レゾンの声に引き戻され、ヴィオレは意識を引き締めた。