第三章

 そこまで考えてもおかしくないことを、レゾンはした。知る必要のない事実を教えてしまったのだ。ただ、自分の過ちを軽くしたいがために。

 自分が罪悪感に負けなければ──エラーを巻き起こす思考が、消去を繰り返してもとめどなく溢れてくる。

「不安定? 今はそんなことを言っている場合じゃない」

「しかし」

「他のハイジアの到着を待つ余裕を作れたとしても、中層へ送り込むのは最後の手段だ。周辺への害をもっとも抑えられるのはヴィオレだろう」

 萩原の言葉は正しい。遠方から一方的にペストを攻撃するハイジアたちの能力は、浅間内部で戦うのに向いていない。周囲に障害物が多すぎるし、それらを無視して戦っても浅間全体に支障が出る。

 浅間の持つ物資が限られている以上、施設の損傷リスクは最小限に抑えるべきである。そのためには、ヴィオレの能力が必要になる。

「──私がなんとかする。一般住民の避難に集中してくれ」

 レゾンが言うと、萩原はわずかに黙考したあとマイクを切った。

 了承の意と受け取り、レゾンはヴィオレの映るカメラに意識を向ける。

 なんとかする、とは言ったものの、レゾンにはヴィオレへ差し出す手がない。ヴィオレへ近づく足も、それどころか、かける言葉すら分からない。

 結局、ヒトの手を借りるしか術を持っていないのだ。

 その男がいる部屋のスピーカーへアクセスするのは、人工知能といえども少し覚悟が必要だった。

「ドクター・御堂。話がある」

 レゾンは、同じ罪を背負った青年へ五年ぶりに声をかけた。