第二章

 ヴィオレの念動力も、本来は広い範囲に有効な能力であるはずだった。元となったペストは、その脅威を存分に発揮している。技術が確立して以来ほとんどハイジアの損耗がなかった百年以上の常識を、たった一匹でひっくり返すほどの脅威だった。

 ヴィオレが宿しているのは、十年前、四人のハイジアを犠牲にして浅間が手に入れたペストのDNAである。

 その結果が、もはや必要のない近接戦闘型にしかならない失敗作だとしたら──ハイジアに関わる人間が失望するのも無理はない。

 ヴィオレは自然と人の少ない道を選んで歩く。各所にある階段でも特に利便性の悪いものを選びながら、神経質に白で統一された科学者の領域からさらに下層へ。次第に人の気配は消え、住みやすさや居心地のよさを無視した金属色が目立ち始める。

 浅間の最下層を陣取っているのは、ひとつの巨大なコンピューターだ。八脚で支えられた金属製の球体から血管や神経のようにケーブルが生え、柱を伝って上層へ続いている。人間が下りるための階段はケーブルを避けるように取りつけられていて、だから利便性など欠片も考慮されていない。

 曲がりくねった階段を降り、ヴィオレは浅間の最下層へ辿りついた。定期的に行われるハードメンテナンス以外、人の出入りはほとんどない場所だ。

 それもそのはずで、巨大コンピューターには、人が外から操作するためのキーボードやタッチパネルといった入力装置はもちろん、液晶画面などの出力装置すらない。代わりにあるのは、マイクとスピーカーだけだ。

 巨大な球体を支える柱の一本へ手を触れ、ヴィオレはマイクへ声をかけた。