第二章

 右足に軽く体重をかけてみると、テーピングはほどよい圧迫を足首に与えてくる。痛みはかなり軽減されていて、ヴィオレは御堂に頷いて返す。

「それはよかった。無理な運動はしばらく禁止だけどね」

「……うん」

 もう一度頷いて応え、ヴィオレは最後の身だしなみを整える。ニーハイソックスとロングブーツで足元を固めて、ようやく人心地ついたような気がした。

 ハイジアとしての扱いに慣れたとはいえ、それを全く気にしないことはいまだできない。実験対象や戦略兵器と同様のものとして自分を見る多くの人間がいると同時に、あくまで人間として扱おうとする者が一人いるからだろうか。

 御堂は科学者仲間からも白眼視されているが、ヴィオレからしても考えの読めない男だった。二人の関係は、実験対象と科学者以上のものではない。そもそも、御堂がハイジアを人間として扱うこと自体、ヴィオレに限った話ではない。

 ハイジアとなる施術を自ら施したか否かすら問わず、御堂は全てのハイジアを人間扱いしている。だから彼の研究室の応接スペースはハイジアたちの領域と化しているし、研究室らしからぬハーブの香りもハイジアたちに趣味を作るために御堂が持ち込んだものだ。

 ここまでくると、さすがに常軌を逸している──と、ヴィオレは思う。

 ヴィオレの認識で言えば、ハイジアは人間ではない。培養されたペスト細胞を体内に取り込み、成熟済みの体を作り変えた「ペスト寄りの人間」だ。