第一章

 水平方向に立つ火柱が、モニター上を横断した。同時に、イヤフォンから流れていたノイズがぶつりと途絶える。

 ペストの異様さを幾度も見てきた萩原すら、思わず息をのむ光景だ。

 染色体異常に基づく進化は、これまでに築かれた生物の常識をあっさりと覆した。巨大な体躯も、放射能への適応も、通常では考えられないほどの速さで進み、他の生態系を破壊するに至っている。「火を吹くネズミ」が生まれたのも、その非常識な進化の結果だと言える。

 その中でヒトが生き延びているのは、他でもない──ペストが進化で得たDNAを、人体改造に利用したからだ。

「──っ」

 熱波を受けて機能不全に陥った無線が、ようやくマイクの音を拾った。

 モニターを埋め尽くしていた火柱は消え、焼かれた高山植物が灰となって散る。その中で、ヴィオレはネズミに向かってまっすぐ突進していた。

 人体改造を受けたヒトは、ペストが数百年かけて得た力を一代で手に入れることになる。

 短い呼気と共に、画面上のヴィオレが地面を蹴る。

 ヴィオレの異能は念動力。

 炎にのまれようと自分の体表から五センチの範囲には侵入を許さず、相手の体に触れればその内側へダメージを通す。

 脚力や重力ではなく、念動力の圧力によってペストの骨盤は破壊された。それが生命維持に必要な部位──たとえば脳に向けられたら、果たしてどうなるのか。いちいちダメージを想像するまでもない。

 ヴィオレは一度の跳躍でネズミの頭上へ到達すると、直接脳を潰す一撃を叩き込んだ。