第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う

 骸骨たちは、カソックの男の方を向いている。

 より正確に言えば、十数メートル程まで浮遊したカソックの男の、真下に居るティアの方を向いている。

「……本体に力を引っ張られていたか」

 と、カソックの男は誰に向けるでもなく声を発する。

 そして右手を切り払い、骸骨へ命令を下す。

「このガキが先だ!」

 ゾグンと、それを聞いたリッキーの心臓が凍りついた。

 リッキーはどこかで高をくくっていた。女神の力が完全に目覚めるまでカソックの男はティアを手に掛けるような事はしないと。まずはこちらを屠って魔力の根源たる心臓を抉り出すのが目的なのだろうと。

 だがそれは間違いだった。

 ついさっき男は言った。

 本体に力を引っ張られていたか、と。

 女神の力の象徴である翼は女神本体から切り取られ、既にカソックの男へ移っている。にも関わらず男の任意の通りに動かせないのは、女神本人たるティアが力を取り返そうとしていたからだったのだ。

 ならば力の乖離を止めるには、本体を叩けばいい。

 ──ふ、ざけやがって……!

 だからカソックの男は、標的を切り替えた。ティアを先に殺し、力の戻る場所をなかった事にするために。白の軍勢を使い、一瞬で。

 ──ふざけやがって!!

 リッキーは奥歯が砕けるほど歯を噛みしめて、再び走り出す。

 リッキーは憤る。

 自分にはない力が欲しいと思ってしまうのは人間として仕方のない事である。どうしようもない性だ。

 それは時に他人を傷つけ、自分を傷つけ、自身を取り巻くものすら蔑ろにする。

 リッキーも力が欲しかった。誰かを守れるだけの力が。こんな破壊を生み出すだけの、なんの生産性も無い腕力なんて要らなかった。

 この力を捨て、誰かを守る力が得られるというのなら喜んでそうしていただろうとリッキーは思う。だけれど──