第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う


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 炎が轟々と燃え盛る。

 裏通りにあるイアン宅は、先ほど巻き起こった大爆発で木端微塵に吹き飛んでいた。しかも近隣の数軒を巻き込んで。

 爆発と同時にぶちまけられた種火が爆心地からは大分離れた所にまで飛び火してしまっているらしく、降り注ぐ雨で鎮火に至ったところもあるがそれでも勢いの強い個所は燃え盛って裏通りを焼き続ける。

 しかしながら、あれだけの大爆発が起きた直後であるにも関わらず、裏通りは野次馬が駆け付けるでもなく近隣住民の悲鳴が飛び交うでもなく、普段通りに、むしろ普段以上の静寂に包まれている。

 爆発が起こって建物や道が瓦礫で散らかったところでいつもと大差ない。

 裏通りの空気は、まるでそんな風に言っているように思えてしまう。

 事実、整備の行き届いていない石畳は常時的にガラクタが放っぽり出されているから多少ゴミが増えた程度では大差ないのかもしれない。

 それに、ここは住まう住民の種類は表通りとはまったく異なる。

 簡潔に言えば、腹に一物抱えた裏世界の住人が多くいる区画だから、近隣住民同士の付き合いなど皆無に等しい状況なのだった。

 ガタリ、と。

 不意に、無造作に積み重なっていた瓦礫の山が動く。次いでガラガラと音を立てながら瓦礫が崩れ落ち、その下からリッキーが勢いよく身体を起こした。

 土埃が喉に絡んだらしい。リッキーは二、三度咳き込んで痰を吐き出し、口元を服の袖で拭いながら自分の生を訝しんだ。

 あれだけの大爆発を避ける術はなかったというのに、なぜ自分はこうして生きているのか理解できなかった。理解できなかったし、生き長らえてなおこうして五体満足でいられることが信じられなかった。

 そんな中、リッキーが居る場所から手を伸ばせば届きそうな位置にある瓦礫の下から今度はイアンが這い出てきた。

 瓦礫を退けながら咳き込むイアンの口から血が滴る。