第二章 危殆はトラブルと共に

 青痣に身体を蝕まれ、魔薬(エリクシル)で僅かながら魔力を取り戻した直後に翼が生えたことを思い出せば、それがカソックの男が言う女神覚醒の手順に奇しくも当てはまってしまう。

 小さな背中から生えた大翼。

 幾重にもなった魔法陣を湛えた虚ろな瞳。

 まるで別人のように成り果てたこの姿こそが、ティアが持ちうる本来の姿だというのか。

「だが完全にはほど遠い」

 とカソックの男は呟く。

「完全覚醒には──リッキー君。君が必要だ」

「……俺……?」

「ああ。そういう事だから単刀直入にいこう」

 男は、言う。

「君の心臓を寄越せ」

 ゾン、と。鋭利な刃物を突き立てたかのような男の声が部屋に響く。

 声色が、一変していた。

 同時、男の様相にも変化が。

 垂らした前髪で影っていた瞳がギチリギチりと大きく見開かれて血走る。袖から覗く細指が何かをむしり取るように空気を何度も何度も引掻き、関節を鳴らす。そして男が右腕を持ち上げてかざした直後、掌から黒い霧が吹き出し──その霧から骸骨が顕現してリッキーへ襲い掛かった。

「──!?」

 起爆。

 声を上げる間もなく突発的に紅蓮の爆炎が巻き起こり、爆風でもって室内にある物すべてを吹き飛ばす。

 骸骨の急襲を床へ転がり寸でのところで躱したリッキーは爆風に飲み込まれて壁に叩き付けられ、その隣にいたイアンも巻き添えを喰らって吹き飛ばされた。