第二章 危殆はトラブルと共に

 リッキーはこの薬屋に出向いた理由を口にする。

「魔力を多量に含んだ薬草だか薬品だか。俺はそれが欲しいんだ」

 幼女を救う足がかりとなる物。

 されど救いとは程遠い一時的な緩和措置。

 精霊とは、魔力を糧に生きる高位生命体だ。だから魔力を摂取することさえできれば、ひとまずは死という最悪の状況は先送りにできる。

 先送り。

 棚上げ。

 目隠し。

 言ってしまえばそんな、その場しのぎの苦し紛れなわけだが。

 しかしながら、なぜあの幼女は空気中から魔力を摂取するための魔力穴なるものが全て閉じてしまっているのか。加えて自分はおかしな体質を持っていて、契約すれば自身もろとも殺してしまう可能性もある。

 組み合わせが最悪だ。劣悪この上ない。

 これで最終的な救いの手段はリッキーの手に委ねられているというから、まったく悪い冗談のようだった。

 つまるところリッキーは、これから数分だか数時間以内に何かアクションを起こさなければならない。とはいうものの、策という策なんて見当たりはしないし考えても出て来そうもなかった。

 とりあえず契約に及んでみるという、無謀かつ最高に頭の悪い奇策もあるが、力任せに事を運んでは誰も救えないということをリッキーは十二年前に学んでいた。悪夢とでも称すべき十二年前のとある一日──いや、もしかしたら一時間だったかもしれないし、ものの一分程度だったのかもしれない。

 そのせいで薄紫髪の男は死んだ。

 周辺の人間も巻き込み、死んだ。

 死んで、死んで、死んで──そして、おめおめと図々しくものらりくらりと、リッキーはただ一人生き残った。