第二章 危殆はトラブルと共に

 数瞬の睨み合いで事をおさめる。

 同時、リッキーの瞳に光が戻っていた。

「さっきまで死んだ魚みたいな眼をしていたくせに……おい脳筋。まだ気を緩めるなよ。本質的な救いは本格的にお前の手に委ねられたんだからな」

「わかってらぁ」

 そう。

 後はリッキーが精霊契約に踏み切れるかどうかという事と、それが結果として救いに繋がるのか、という二つの項目に懸かっている。

 大前提としてリッキーは前回の精霊契約に失敗している。しかも身体的な理由で。それはもしかすれば越えられない壁かもしれないし解決できる問題なのかもしれない。しかしながらハッキリ言って明確な策も無い。

「中枢街に向かう通りの途中に薬屋がある」

 とイアンは言う。

「薬屋?」

「ああ。そこに、探し物があるかもしれない」

 魔力を多量に含んだ物が。

 この状況を一時的に打破できる何かが。

「よし」

 聞くや否や、リッキーは床に落ちたマフラーをまき直し、幼女を抱えて立ち上が──ろうとしたところでイアンに制された。

「待て。子供は置いていけ」

「?」

「体温低下は魔力の消費を早める」

「……そうか」

「心配するな。こちらはこちらで別の魔力供給の方法を講じてみる」

 大分冴えてきた頭で思考するに、イアンがここまで協力的にする理由と言えば一つしかないが、闇医者の協力は必要不可欠だとリッキーは割り切るしかなかった。それに、人を抱えて走るよりは一人で行動した方が無茶をできる。苦茶だって。

 扉に手をかけたリッキーの背中に、再びイアンの声が飛ぶ。

「お前だけが特別だなんて思うな」

「は?」