第二章 危殆はトラブルと共に


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 大粒の雨が石畳を叩く。

 水捌けを最重視した作りの石畳は流れた先が限界を迎えて水が飽和していた。

 これだけ勢いのある降水は数週間ぶり、数か月ぶり。兎に角、冬季から続く降水量の減少に兼ねてから悩まされていたアザリアの街は久しぶりの雨に複雑な心境だった。

 証拠に、つい数時間前まで賑わっていた街のメインストリートは立ち並んだ店が早々と店じまいし、静まり返っている。

 だが、クローク姿の男はそんな事に気を向けている余裕すらなかった。

 一人取り残された客間で、ヒューゴーがいなくなった部屋で、頭を抱えて身震いする。男は同時に激しい後悔に見舞われていた。

 なぜ自分は王都から来たあの男にアザリアの内情を喋ってしまったのだろうと。

 客間から立ち去る間際、ヒューゴーは言った。

 この街にも街路児がいるのだろう、と。

 街路児。

 それは天涯孤独の名を背負った時代の被害者。その名の通り、街の路上で生きる子供たちの呼び名である。子供たちの中には始めからそこで生まれ育つ者もいれば、何かしらの理由で棄てられる者もいる。

 かつては強制労働に就かされていた人々が制度廃止と同時に街の片隅もしくは僻地に追いやられ、その中で生まれた子供たちがそう呼ばれていたのだが、時代の移り変わりに伴い、今となっては棄てられた子供全てに対し、この蔑称が付随されている。

 ヒューゴーは、この街路児を利用すると言った。

 社会上生きていることを政治に認められていない人間を、今度は生物的に殺してから利用すると言ったのだ。

 命の犠牲の上に都市を守る。

 とでも言えば聞こえはいいか。