第二章 危殆はトラブルと共に

 医者が見つかればこの幼女はなんとかなると、高をくくっていたのはどこの誰だったのか。

 リッキーは、今更気付く。

 クルスティアン・ポポリオーネを死の直前まで至らしめているのは、他でもない自分じゃないかと。全ての原因は自身にあったのだと。

 しかもよく考えれば、幼女の纏う変調にも気付けたはずで、気付く機会も度々あったはずだ。

 今までことごとく追い返してきた精霊たちは、たった一度蹴り飛ばしただけで諦めていたのに、ティアは諦める様子もなかった。他に契約を承諾してくれそうな人間なんて、どこにでも居そうなのにも関わらず。

 どうしてそこまでしなければならないのか。

 その理由は知れないし、知らない。知る由もないが、もしティアが何かの理由でリッキーとしか契約ができないのだとしたら……。

 それならば今からでも精霊契約を、と事が運べば問題ないのだが、おいそれと契約を結ぶことすらリッキーにはままならなかった。

 理由があった。

 過去があった。

 傷があった。

 歪んでいた。

「ああそうだ脳筋。お前に聞いておく事があった」

 固まるリッキーを余所にイアンは問う。

「この子供の契約適合者はどこにいる?」

 答えられなかった。

 なぜなら、一方的に契約を持ちかける側と問答無用で断る側。ただそれだけの関係だったのだから。

「もしかすると、お前がそうなのか? そうだとすれば、もう一つ」

 言ってからイアンは椅子から立ち上がり、リッキーのマフラーを掴み、そして引き剥がした。

 はらりと床に落ちる黒の布。

 露わになるリッキーの首筋には、

「どんなつもりで布を巻いているのか聞く気はないが、お前の首筋にある精霊との契約痕と思しきそれは何だ?」

 歪んで、歪んだ、魔法陣(りゆう)があった。