第一章 トラブルは横暴幼女と共に

「早く!」「──逃げろ!!」

「なんなんだよ、あの骸骨は!」「もう──死にたくない!」

 悲鳴が悲鳴を呼び、人々が我先にとそれぞれの通りへ殺到する。

 ──骸、骨……?

 リッキーは、ギクリと跳ねた心臓を抑えつけつつ、ゆっくり後ろを振り返る。ゆっくりゆっくり振り返る。

 そこには、先ほど消滅したはずの骸骨が。いや、数倍数十倍にまで巨大化した黒を纏う骸骨がいた。

 リッキーの喉が干上がる。

 カラカラと珍妙な笑い声が爆音のように響き渡る。

 特筆すべきは、骸骨のその全長とようやく顕現された脚だ。

 少なく見積もってリッキーの身長程度はある巨大な頭蓋の横には五指を開いた右の掌があり、その掌の中心で爆煙が渦を巻いていた。片膝をつくような格好の巨大骸骨はギシギシと骨の接続部を軋ませながら右の腕を持ち上げる。

 リッキーはたまらず呆けた。

 どこからともなく現れたとか、連続して危機に直面している現状とか、そんな事は抜きとして、ただ単純にその巨大さに呆けた。

 巨大骸骨が拳骨を握ると爆煙が拳全体を覆いつくし、地面から沸き起こる霧を引き寄せて更に纏う黒を巨大化させる。

 そして黒の収束が終わった瞬間、巨大骸骨の拳が振り抜かれた。

 轟! と横薙ぎに振り抜かれたそれはリッキーの僅か上を掠め、勢いそのままに民家へ突き刺さった。

 地震に見舞われたかのような振動が辺りに響く。

 後ろを見てみれば、横に並んだ四階建家屋おおよそ六棟の上部が纏めて吹き飛んでいた。