第一章 トラブルは横暴幼女と共に

 あの骸骨は一体何なのか。

 まず、人間でないことは確定だった。

 胴体を黒い霧のようなはっきりとしない靄(もや)が覆っており、脚はなく、まるで羽織ったローブをなびかせるような形で宙を滑走している。

 しかもその纏った霧には実体がないらしい。蹴り転がした空樽が骸骨の胴体を捉えたはずだったのに、すり抜けて後方の民家に当たって大破したのをリッキーは見ていた。

 ──まさかあれも精霊だっつうのか!?

 疑問を加速させながら後ろをちらりと振り返る。

 リッキーはそこで目を剥いた。

 骸骨の一体が地面を腕で殴り爆発を巻き起こして加速し、人の壁を飛び越えて十数メートルはあった彼我の距離を一気に縮めた。

 カラカラと笑う骸。

 振り上げた起爆の腕。

 触れれば爆ぜるその白にリッキーの喉が干上がる。

 時間間隔が引き伸ばされ、スローになる世界の中でリッキーは、自分の背中に白骨が着弾する瞬間を──

 唐突に、ザン! と鋭い太刀音が震えると共に骸骨が身体ごと地面に叩き付けられた。

「!?」

 横たわる骸骨が白と黒の粉になり、突き刺さった長剣だけ残して霧散する。

 理解が追い付かない。

 突如として空から降ってきた一振りの長剣が骸骨の頭を捉え、身体ごと石畳へ叩き伏せたのだ。

 誰か援護でもしてくれたのかと周囲の建物を見上げて回したがそれらしき人影は見当たらず、視線を落としたところでリッキーはハッとした。

 脇に抱えた幼女がかざした右手が光っている。

 ──まさか、こいつが……?

 この幼女は精霊である。