第一章 トラブルは横暴幼女と共に

「あのチーズ、めちゃくちゃマズかったね!」

 マズかったね!

    ズかったね!

     かったね!

       ったね!

          ね!

           ね、ネ、NE──

「…………」

 果たして残響は空耳だったのか。

 プツリ、とリッキーの中で何かが切れた。それと共に人格を構築する理性という名の壁が音を立てて瓦解していく。

 同時、これまでのやり取りがフラッシュバックし、リッキーの脳内が埋め尽くされていく。

 空っぽになった樽や皿が散乱するテーブルを見て、なんだこれはと熱が湧く。

 床に落ちた野菜根菜果物の残骸を見て、煮えたぎるようなドス黒い何かが沸々と腹に湧き上がってくる。

 この時リッキーは、はっきりと理解した。

 重苦しく、しかし熱を帯びたこの昂揚感の正体を。これが怒りだということを。

 抑えねばならないのは重々承知している。

 当たり前だ。齢二十四にもなる大人が、傍目、十にも満たないであろう子供に向かってこの感情をぶつけるなど。

 ただ、勝手に食糧を漁っておきながら最後に放ったその一言だけは、例え悪気が無かったとしても許されるものではなかった。

 残念無念。幼女が悪い。

「んの糞ガキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああ!」

 旭陽。

 東の空の太陽が完全に顔を出した。

 屋内だけに留まらず山中に響き渡るリッキーの怒号。