第一章 虚無に満ちる人造秩序

 部屋に入るなり義景は早姫の麻酔の抜け具合、義肢接続部の状態を確認し、問題がないと分かると早姫を連れ出して街のとある場所に足を運んだ。

 神代市・中心街から少し離れた所に建つ大型複合商業ビル。

 その真下。

 地下一階にそれはある。

 リプロダクション・シミュレーター。

 八方を白で埋め尽くされた三十メートル四方のその部屋は、地下一階にある入口からしか入る事のできない異空間である。

 とは言うものの、部屋の数は一つではない。

 ワールドを繋ぐ境目【ポータル】の技術を応用して入室できる部屋は全部で十。部屋はそれそれが独立しており、部屋同士が干渉することはない。

 そんな便利部屋の用途は幅広い。

 地形、温度、天候、時間。

 あらゆるシチュエーションを利用者が任意で設定することが可能であるため、たとえば海を再現して海水浴を楽しんだり、極寒の雪山を登ったり、硝煙弾雨の戦場を駆けたり、といった体験が簡単にできる。

 ということは、これを応用すれば、たとえば実戦を想定した戦闘訓練も可能であり──

『とりあえず確認がてら、軽めにいこうか』

 白で埋め尽くされた部屋に義景の声が響く。

 その声はマイク越しのせいか少し籠っていた。

『準備ができたら教えて』

 部屋の中央に立つ早姫は頷いてポケットからスマートフォンを取り出す。

 画面をタッチすると四肢が伸縮性に富んだ黒いスリーブに包まれ、腰から伸びた紐の先には鞘、鍔、柄、全てが真っ黒に染まった刀が下がっていた。

 一つ、息を短く吐いて早姫は言う。

「オーケー。いつでも」