第一章 虚無に満ちる人造秩序

 疑念と不安がどこからともなく一気に吹き上げて来て、早姫は表情を一層こわばらせる。そしてベッドから勢いよく飛び出したところでバランスを崩し、木張りの床に倒れ込んだ。

 床に這いつくばる早姫は、困惑と驚きの表情を浮かべる。

 その原因は、脚にあった。

 いつも感じていた感覚がない。地面を捉えている時に筋肉を伝って駆け上がってくる安定感が足りない。

 その代わりに滞留する鈍い痛覚。

「大丈夫!?」

 ダンボールを投げ出し、慌てた様子で駆け寄ってくる男のことを警戒し続ける余裕は早姫にはない。

 早姫は首だけ回し、困惑の原因である自分の脚を見やる。

 プリーツスカートから伸びる線の細い華奢な脚。

 その左。

 包帯に覆われた早姫の左脚は、膝から下が空白だった。

 急激に昨日の記憶が蘇ってくる。

 流行りのスプリングコートに身を包んだ中肉中背の男。

 外見的特徴をあげるとすればそれくらい。髪型も特筆する点のないごく普通のもので、どこにでもいそうなありふれた印象を受ける。

 そんな人物に、早姫は左脚を切り取られた。

 なぜ自分が襲われたのか、その理由は分からない。

 大通りまでの道をショートカットするためふらりと入った裏路地で、すれ違いざまに痛みを感じる間もなく左脚の感覚を失って、気付いたら地面にへばりついていたというのが事の詳細だ。

 それにしてもアスファルトに血だまりができるくらい派手に出血しておきながら絶命しなかったことに、早姫は驚きを隠せない。

 早姫は身体を起こして床に座り直し、頭の中を整理する。