シーンA

   Durandal On-line!!
   Waiting**********

   ────O.K Standby!!


   *


 抑揚のない機械音声が木霊した。

 踵を返してその場を立ち去ろうとした柊冠九郎(ひいらぎかんくろう)は、耳に飛び込んできたそれに足を止め、思考する。

 武器召喚時の動作音声。

 自分が持つ携帯端末からの音声ではない。

 なぜなら自分の手には擬似デュランダルであるツジキリマルがしっかりと収まっているのだから。

 柊冠九郎は完全に立ち止まって更に思考する。

 先に自分が放った一撃は、相手を一撃で仕留める技──自身が持つ固有スキル『斬鉄剣』。目が追い付く暇もなく相手を屠る見切り困難の高速抜刀術だ。

 柊冠九郎はゆっくりと振り返る。

 いや、しかし。

 斬撃の反動、抜刀時に骨に走る電気のような痺れる手応えも確かにあった。確かにあったし、右手のツジキリマルの切っ先からは赤い液体がポタリポタリとしたたり落ちている。

 では、なぜ自分以外の携帯端末の音声が聞こえてくるのか。

 柊冠九郎は首を軋ませながらゆっくりと振り返る。

 まさか。

 躱したとでもいうのか。数多のランキング上位者たちを切り伏せてきた高速の技を。

 その高速剣技を、たかだかゲーム内序列千番台の底辺プレイヤーが躱せるわけが。だが先ほど聞こえてきた機械音声は現実味こそなかれ、幻聴とは思えないほど鮮明で──

 そして冠九郎は、ついに視覚する。

 接触不良か単なる老朽化からか、ちかちかと明滅する街灯の下にいる人間の姿を。『斬鉄剣』で片をつけたはずの序列千番台底辺プレイヤーの姿を。

 額に、背中に。ぶわりと一斉に汗が噴き出した。

 主人の動揺に同調するかのように、指の震えでツジキリマルがかたかたと音を立てる。

 倒せてなどいなかった。自身が想定していた全てが一瞬で覆され、言葉を失って後退る冠九郎。

 そんな冠九郎を余所に機械音声が再び木霊した。


   *


   心拍数、血圧上昇_
   脳内特定物質の分泌を確認_
   以上の点からマスターが戦闘状態にあると判断、闘争モードに移行中_
   **********
   パワースリーブ、及びスキル『鋼化』のロードが完了_
   バトル・アバタ―セットアップが完了しました_

   闘争を開始します_

   *

 明滅する街灯の下にいる少女の華奢な矮躯に黒が纏わりついていく。

 セーラー服の袖は『斬鉄剣』で千切れたのか肩口から散切りになっていた。

 そして彼女が生きているという事は、『斬鉄剣』は躱されていたという事になる。序列千番台の底辺プレイヤーに、しかもまだ中学生くらいと思しき幼い少女に。しかし更に信じがたい事実がある。

 彼女は回避はおろか、そもそもバトル・アバタ―ですらなかった。

 そんな状態で高速抜刀術を躱す人間が底辺プレイヤーであるわけがない。これは何かのバグだゲームの故障だ!

 冠九郎は目を剥いて首を横に振った。

 少女は日本刀を支えに立ち上がる。

「うわさに聞いた『斬鉄剣』がどんなモンかと思えば……おにいさん、あんた」

 少女は小さくため息をついて、


「──調子こいてんなぁ?」


 伏せていた双眸を大きく見開いて冠九郎を視とめた。

 直後、唐突に冠九郎の手にあったツジキリマルの刀身が真ん中から綺麗に割れ、からりと地面に転がった。

 驚愕する冠九郎に不気味な笑顔を向けながら少女は告げる。

「鉄を斬る剣がどんなモンか、その身に刻んでやるよ」