小林

 たった数分、ギルドから離れただけで俺が立ち上げたギルドはなくなっていた。

 『学生ギルド』基本条件はリアルで小・中・高いずれかに通っていること、だが確認のしようがないため事実無条件加入だ。

 無条件加入のためか人数が日に日に増えていき、他の大型ギルドには実力が少し劣るもののプレイヤーの間では大型ギルドに俺の立ち上げたギルドも数えられている。


 決して強いギルドじゃなかった。

 そして、決して弱いギルドでもなかった。


 ギルマスの俺が居なくたってコード・リファレンス攻略だってできたし、レア武器を持ってるプレイヤーもいた。

 それなのに、俺の目の前に広がっているのは苦労して立ち上げたギルド、共に戦ってきたギルドメンバーが地に伏している姿……

 唯一、立っているのは幼い少女。

 くりっとした目をこちらに向け、綺麗なロングヘアーの髪をなびかせ、倒れているギルドメンバーの背中に座っている。

「……お前がこれやったのか?」

「やりすぎちゃったっ」

 可愛く舌をペロッと出すが、目は笑っていない。
 
「お前、なんなんだよ……」

「なんなのって、私は小林だよ」

 着ている体操着の胸の辺りにぬいつけてある『小林』の文字をなぞる小林と名乗った幼女、視界には入っているんだろうが一度も俺と目を合わさない。

「何が……何が目的なんだっ!」

「目的? 目的は一つだけえむちゃんの邪魔になるのは全部潰す、そうすればえむちゃんも私を認めてくれるはず、えむちゃんの隣に居ていいのは私だけなんだから、なのになんで私じゃなくてあいつらなのよ、えむちゃんの隣に居ていいのは私だけなのに有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない……」

 新しい玩具をもらった子供のように顔を輝かしていた小林は、『えむちゃん』と言うたびに顔の輝きがなくなり、仕舞いには自分の親指を噛み始めブツブツと何か言い出した。

 えむちゃんとは何者何だろうか、小林を裏で操っているのがえむちゃんなのだろうか。 

「……小林、俺のギルドをめちゃくちゃにしといてそのまんま帰るわけじゃないよな?」


   *


   心拍数、血圧上昇_ 脳内特定物質の分泌を確認_
   以上の点からマスターが戦闘状態にあると判断、闘争 モードに移行中_

   **********

   パワースリーブ、及びスキル『断罪の深追い』のロードが完了_
   バトル・アバタ―セットアップが完了しました_

   闘争を開始します_


   *


  戦闘モードようのアバター、甲冑に刀を装備する。

「当たり前じゃん、あんたも邪魔だから…… この世界にえむちゃんと私以外のプレイヤーはいらない!!」

 小林とはじめて目があう、幼い少女とは思えないほど濁った瞳。

 目があっただけなのに、全身に寒気が襲う。

 小林の手にはモップが握られている、ユニーク武器だろうか一定の条件をクリアすると手に入る武器、武器の強さが有名だがクエストの難しさからほとんど挑戦するプレイヤーがいない。

 自分の武器、『正宗』を握りなおす。

「刀? いいなぁ かっこいい」

 小林が俺の武器をマジマジと見ている、自分の武器が強いこその自信かモップに体重を預け立っている、戦闘モードとはとても思えない。

 あんなに隙だらけなら簡単に斬れる、そう確信し走り出す。

 刀を前に突き出しつく。

 当たらなかった。

 どうかわされたかもわからない。

「はい、おしまい」

 頭とは腹部に衝撃が走る。

 頭はモップで殴られたことがわかったが腹部に何が起きたかわからない。

 ゆっくりと視線を下げる、小林のか細い腕が甲冑を砕き腹部にめり込んでいる。
 
「じゃあね、もう二度とログインしちゃ駄目だよ?」
 
 視界が赤くフェードアウトしていく、たった2撃で殺られた、幼い少女に……

「……最後に教えて欲しい『えむちゃん』って何者なんだ?」

 小林がにっこり微笑む。

「えむちゃんは、『ぐりむ☆りーぱー』のギルドマスターで私の最愛の人よ」

 小のか林の顔は見たことのない、恋する乙女の顔している。

「それと…… てめぇが、えむちゃんなんて気安く呼んでじゃぁねぇぇえ」




 目をあけると、見慣れた天井が俺の瞳に写る、ログアウト処理が行われたことを知り、ため息を吐く。

 目を閉じると、最後に見た小林の怨みのこもった表情がまぶたに映る。

 『ぐりむ☆りーぱー』 『えむちゃん』これらを探ってみる必要がある。

 小林に復讐するために……。