〇〇九

「アンタ、本当の糞野郎だったんだなぁ。だったら──」

 パーカーとシャツの袖をまとめてたくし上げるロニ。露わになった腕には幾何学模様がいくつも描かれている。

「──遠慮なくやれる」

 掌を返し、かかってこいと煽った瞬間、メイソン・ジョーンズが飛び掛かった。

 右の剛腕が風を切って唸りを上げる。が、ロニは軌道の真下を屈んで避ける。そして避け様に左の拳を腹に叩き込んだ。重低音が響くと同時、衝撃が腹を貫いて背後ろの空気が揺れる。

 重い一撃を喰らったメイソン・ジョーンズが地面に崩れ落ちる。

 肋骨が折れたらしい。息も絶え絶えに嗚咽を漏らし、口腔から涎をぶちまける。

 一撃。

 たったの一撃でメイソン・ジョーンズの頭の中からは戦意が消失していた。

 この場から逃げ去りたい、消え去りたいという衝動で胸中を埋め尽くされ、四つん這いの格好でメイソン・ジョーンズはじりじりと逃走を図ろうとしたが無意味だった。

 跪く山羊頭の怪物へ、ロニは掌を向けて呟いた。

「重みが欲しいか? だったらくれてやる」

 直後、不可視の塊のようなものがメイソン・ジョーンズの全身に降りかかった。