一、世界はそれを成り行きという

「メリーには夢があるんですね」

「…………ほんとうはね、まじゅつしょうこうにんまじゅつしっていうのになりたいんだけど、わたしは、なれないから……」

 そうやって笑顔を少し曇らせるメリーを見て、ロニは言葉を詰まらせる。

 魔術師には魔術省に認められた○公と、それ以外に一般魔術師が存在する。魔素に干渉することが出来さえすれば、一般魔術師は誰でもなれる。が、○公になるには才能以前に先天的にクリアしなければならない条件というのが存在する。

 その要項は、メリーはもちろんロニも既知の事で、そんな中でも○公であるロニは、目の前の少女になんと声をかけたらいいのか分からなかった。

 眉を寄せて言葉に困っていると、みかねたようにメリーが元気な笑みを見せる。

「でも、いいの。ちょっと前に来たおきゃくさんもね、おねえちゃんみたいにわたしのこと褒めてくれたんだよ」

「その人も魔術師だったんです?」

「うん。いつか迎えにきてくれるんだって。名前はわすれちゃったんだけど……顔になんか描いてた」

「顔に? なんでしょう……刺青かな」

 一般魔術師は一般魔術師同士で徒党を組む場合があり、徒党ごとに所属を示すための証を作ることがある。

 証はチャームで合わせるところもあれば、刺青を刻むところもあったりと多種多様だ。

 メリーが言う客も恐らくは一般魔術師の徒党だったのだろう。

 ロニは興味本位で尋ねる。

「どんな絵だったんです?」

「えっと、たしか黒い鳥のやつだったよ」

 それを聞いた瞬間、ロニの眉がぴくりと跳ねた。

 顔に描かれた黒い鳥。それがもしも刺青だとすれば──。