序章 青天霹靂/マ王降臨

 その真後ろで煌々と輝く満月に映った――――夜空を駆るバイクと操縦者の黒いシルエットを。


   *


『なるほど。つまりこの私様に、過去ログを漁って欲しいってワケね』

 サージタリウスの話を聞いたジュリアは、甘ったるい声でそう言った。

「そうなるな。出来るか?」

『愚問ね。もう始めてる。二分頂戴ねー』

 受話口からキーボードをリズミカルに叩く音がする。止まることのない音はジュリアの独り言と重なって加速。

 普段はアレだが、こんな時だけはやはり頼りになるなとサージタリウスは音を聞きながら思った。

 ――さて、こちらはこちらで飛び散った肉片を集めなくては。

 携帯端末は通話状態を保持したままワイヤレスイヤフォンを接続してポケットにしまい込む。

 電波は良好。音声クリア。コネクティングに異常は無し。

 サージタリウスはこれまでの案件を思い出しながら、心の中で反復する。

 まず、今回のマ王騒動の発端となった一度目のミッションでは、討伐時には何も残らなかった。

 二度目のミッションでは飛散した肉片が数秒経たずに蒸発し、次ぐようにして死体も消えていた。

 そして今回。三度目は──

 ネチャリ、と粘り気のある感触がレザーグローブ越しに指先に走った。

 血液特有の鉄臭さが鼻孔に広がる。

 僅かに眉を寄せるサージタリウスであったが、仕事柄、こういった事には耐性を持ち合わせているので嘔吐する事はない。ただ、お世辞にも気持ちの良いものではなかった。

 サージタリウスは摘んだ肉片を手のひらに乗せ、注射器にも似た器具をそれに押し当てる。