第一章 日常茶飯/街の風景

「なあ牧原くぅん。オレさあ、思うんだわ。金ってさあ、大事だよね

「で、その大事な金は例えば誰かが欲しがっていた百円なワケ。今日明日明後日明明後日。未来を生きるために誰かが血反吐垂らして稼いだかもしれないし、もしかしたら難民募金の為に用意した金かもしれない

「ま、そんなのオレが知った事じゃあないが、つまりだ

「街をふらつくだけのキミなんかが軽々しく略奪していい金属じゃあないんだよ。分かる? オーケー? アンダスタン?

「一つだけ言っとくけど、これは別に説教でもなければ、何かのこじつけでもない。オレ自身、聖人君子でもないし清廉潔白なんて言葉とも無縁なんだが、あえて言わせて貰えば、」

 男は、ふぅ、と小さく溜め息を吐いて、


「キミ、何だか知らんがムカつくんだヨ」


 一際、口角を吊り上げながら軽々しく吐き捨てた。それこそ語尾に星でも付きそうなくらい軽々しく、軽薄に、とてつもなく理不尽に。

 そんな横暴極まりない発言に、牧原はたじろぎながらなんとか言葉を返した。

「ひ、他人にもの言える立場かよ……!」

 そしてすぐさま後悔する。

 自分は誰に向かって言い返しているのだろうと。こんな所でこの男に鉢合ってしまった自分は、一体どれだけ運が悪いのだろうと。

 それに金髪の男は先ほど、突っかかってくる理由をしっかりと述べていたではないか。『理由は特にないが、癇に障るんだよ』と。

 しかし言ってしまったが最後。もう、手遅れである。何もかもが手遅れで、何もかもが無意味なのだ。

 牧原は、金髪男の存在をよく理解している。