二、アルヴィンス・ガザの導き
主人を失った白の部屋は、その潔白さを寂しく残響させる。
例え外界が戦場と化していようとも。死の匂いが立ち込める血みどろの世界になっていたとしても。
ぐらり、と。
一瞬、この白の部屋がある建物自体が揺れた。
砲弾でも当たったのだろうか。
割かし大きな揺れだったはずなのだが、白の部屋に変化はない。この分でいくと、隣接する黒の部屋もおそらくなんともないのだろう。
主人を失った白の部屋は、尚もその潔白さを残響させる。
まるで無実を証明するかのように。あるいは何かを塗りつぶそうとしているかのように。
部屋の片隅。
隣室に置かれた物と同じ台座の影に、何かが書かれている。
よく見ると、白い壁に走る赤い線は文字を紡いでいた。
──己れの叡智と使い古しの魂を、最期へと導く──
この部屋にはかつて、賢者と呼ばれる者がいた。
◇・◇・◇
アルヴィンスの呟き 徒然
隣室に誰かが入ってくるなど一体いつ振りか……。
しかもよりにもよって黒の部屋とは。
どうやら新顔は、よほど戦乙女たちに嫌悪されているらしい。まあ、黒の部屋に入れられる者は大概なにかしらのタガが外れているから、嫌悪されるのも仕方あるまい。
…………しかし、
なんと荒々しい魂を持った者か。
銀色の髪に女のような顔。そんな端整な外見に似つかわしくない業炎を心中で炎上させている。
話を聞くに、復讐が目的であるらしい。