タクシー
タクシードライバーになって三年の年月がたった。今では指名がくるほどの人気ドライバーになった。給料も上がったし、先輩方も優しい、特に会社に不満はないんだが1つだけ不満というか憤りがある。
それは俺がタクシードライバーになった理由でもある、幽霊をみること。あわよくば求婚すること。
正直、生きている人間に興味なんてない。人間の女は死んで化けてでてからが花だと思う。
そして俺が狙っている女は3年前テレビで聞いた、タクシーの怪談に出てきた幽霊で後部座席を濡らして消える女がいる。あれはイメージ映像だと知っているが好みだった。
ネットで出現ポイントを調べ、そこに引っ越し、タクシードライバーになった。勤めた初日、先輩方が口を揃えてあそこはヤバいってところばかりを走った。雨の日も雪の日も当番の日は走り回った。
だが、これまで1度も会えてない。なんでわざわざ深夜勤を選んでいるのかもわからなくなってしまった。
今日、会えなかったらやめて次の女を探しに行こうかと思っている。
そんな事を考えて、よく出るポイントを丑三つ時に通ると女が立っていた。
これは来たんじゃないだろうか! だがまだ慌てる時間じゃない。決め手にかける、まだ喜ぶのは早い。ドアを開け、女をのせる。この質問にすべてをかけるしかない。
「お客さん、どこまでですか?」
「……」
これは確実だ。丑三つ時、女、乗せても返答がない。これだけ揃えばもう確定だ。この女は人間じゃない! 人間じゃないとかは関係ない。俺の運命の相手だ!
「お客さん、好きです、付き合ってください」
……唐突すぎたか? 嫌違う、唐突とかじゃない。今の告白は生きてる人間むけの告白だ。
「お客さん、好きです、取り憑いてください」
これだ!! 幽霊にはこれだろ! 付き合うってなんだ! 取り憑いてもらうこれが人間と幽霊の相思相愛の形だろ。
あとは返答を待つまで、沈黙の時間が車内の空気をどんよりとさせてくる。
チラチラとバックミラーを確認する。黒く長い髪が美しい青白い肌を隠しているが妖艶な冷たい空気が俺をゾクゾクさせる。
これが俺の望んでいた恋なのだ! この胸の高鳴りからくる冷や汗、好きな人が近くにいることによる緊張からくる身体の硬直。
生きてる人間からは到底味わえない、恋の感情だ。
「答えを聞かせ……いや、体験させてください!!」
「……気持ち悪い」
その一言が耳に入った瞬間、車内の重い空気も冷や汗も身体の硬直もなくなった。そう俺はふられたんだ。
こうして俺の次の恋愛探しが始まった。