ひんにゅう
俺は思わず、我が目を疑った。
義姉の胸が出ている。
義姉の胸が出ている。
義姉の胸が出ている。
断崖絶壁、国境を隔てる壁がごとく冷徹に聳えていた鉄壁に、膨らみができている。それも申し訳程度ではあるがしかし、今世二十一年、彼女の胸の成長を見続けてきた身内としては驚嘆せざるをえない。
まさか、豊胸を考えていたのか?
一瞬そう思ったが、俺はすぐに考えを改めた。
義姉のオリーヴは軍人である。
挙げた戦果は数知れず。ひとたび戦場に出れば一人で状況をひっくり返し、勝利に貢献する。白髪を敵の返り血で真っ赤に染めるその様はまさに鬼。
そんな一騎当千の働きをする義姉オリーヴが在籍するのは国が誇る最高戦力『魔兵機動隊』。オリーヴと似たような鬼人がいる空恐ろしい部隊である。
こんなことを言うとあれだが、義姉は女っ気がない。
全くない。皆無といってもいい。
身体の線は細いが、か細い感じではなく、なんというか引き締まったと表現するのが一番しっくりくる。髪はワンレンのロングだがオシャレでしているわけではなく、それしか知らないといった感じだ。事実、俺は子供のころからオリーヴがワンレン以外の髪型をしているところを見たことがない。
これらのことから総合的に判断して、義姉が貧乳を気にして豊胸に踏み切るという行動に至る確率は極めて低い。
まあ、しかし義姉も女だ。
もしもがあり得る。
「オリーヴ」
名前を呼ぶと彼女は俺を見て首を傾げた。
なに? と言う代わりに首を傾げているらしい。
義姉は元来口数が少ない。言葉の代わりに行動で示す。
「ああ、ええっと」
ストレートに言っていいものなのだろうか。
相手は義姉だが一応女だ。
「んー、いや…………今日はいい天気ですね」
外をちらっと見て視線を戻し、首を傾げるオリーヴ。
曇りですよ、と。そう言いたいんだろ。分かるぞ。
いかん。気を取り直して。
「あーっと、腹減ったな……?」
なぜ微妙な言い回しになった俺。
そしてなぜそんな微妙な台詞をチョイスした俺!
かくいう俺も軍人で訓練上がりなので腹が減っているのは事実だが。
そんな感じであたふたしていると義姉が自分の胸を指さして一言。普段そんなに喋らないのにしかも胸を指さして一言。
「食べる?」
!?
イート!?
食べるイズイート!?
何を!?
A.義姉パイ
ノット・ファイナルアンサァアアアアアアアアアアアア!
いやオリーヴ何言ってんのオリーヴ。お前久々に声聞いたと思ったら自分の胸指さして食べるかってお前ちょっとあのね確かに俺たちは血のつながりはないけれども俺たちなりの姉弟としての絆とか信頼とかちょっとお義姉ちゃんんんんんんんんんん! 俺そんなふしだらな子に育てた覚えないんだけどおおおおおおおおおおおおお!
そんな感じで混沌をしていると一瞬で距離を詰めた義姉が俺の手を取って自分の胸へ押し当てた。終わった。家族崩壊だ。俺はこれからオリーヴと堕ちていくんだ。失楽園だ。禁断の海へ身を……………………。
感触がおかしい。
柔らかくない。
どころか、なんだかビニール袋を掴んだような感触。
胸から手を離すとオリーヴが自分の服に手を突っ込んで何かを取り出した。そしてうっすら笑って一言。
「シュークリーム食べよう」
義姉の胸はやはりぺったんこだった。