お面
「そりゃ、妖しだな」
駅から徒歩10分ほどの距離にある、喫茶『ムーテン』お洒落な外装と内装で知る人ぞ知る名店だ。
そんな店内で、冬でも浴衣のこの店に合わない風貌の男が出てくる。この男が店に合わないのは浴衣だけじゃない、祭り気分なのだろうか白い狐のお面を被っていてかなり浮いている。
「まだ、何も話してないじゃないですか」
「だーくん、ミルクココア入れて」
話聞けよと思ったがどうせ聞いてくれるので何も言わない。
「みーちゃんはリアクションがないからつまらないよ、でなにを持ってきたの?」
ほらね、この男、秋嘉(アキヨミ) はこの手の話は得意で大好物なのだ。
「私のクラスに生徒会長の子がいるんだけどね? 先週、おじいちゃんが亡くなったらしくてしばらく休んでいたの、久々に学校来たと思ったら明るい子だったのだけどすごく暗くなっていて、暗いというか表情がまったくないの」
「ふーん、ショックでとかじゃないの?」
投げやりな返答だ。たぶんもう気づいているんだろう。この話はこの世の者じゃない奴が絡んでいることに。
「おじいさんとはあまり仲がよくなかったそうよ? 無愛想な方で家族ともお話しなかったらしいし」
「ふーん、それで、みーちゃんは、何を見たのかな?」
仮面の下で嫌な笑みを浮かべているのがわかる。こいつの言うとおり私は見てしまったのだ、会長のスクールバックに入っている不気味なお面を。
「とりあえず、明日連れてきなよその妖怪、準備はしとくからさ」
会長に話かけたがために、私はクラスで浮いてしまったのかもしれない。話かけかたがまずかった。
『あなたのお面について、解決してあげるわ』
会長さんと連んでる人から痛い子を見る目で見られた。ちょっとまだ、心に傷が残ってる。
「入って? 怪しいお店じゃないわ、ただの喫茶店だから」
相変わらずの無表情で会長はドアをあけるが、手が躊躇していたのをみると緊張やら疑心感があるのだろうか。
「いらっしゃい、さぁ、奥に座って? お話……の前に問題を解決するかい? お面をだして」
机に出されたお面は不思議な雰囲気で見ていて吸い込まれる。
「本当に吸われちゃうよ? あまりジッと見ちゃ駄目だ、今のこいつはたちが悪い」
肩がビクッとなった、それを見て秋嘉はクスクス笑う。殴りたい。
「さぁ、退治しちゃうかな」
秋嘉はそう言うと、どこからか取り出したトンカチを振り下ろす。風船が破裂するような音ともにお面が砕け飛ぶ。
「「うっがぁぁぁぁぁああああああああ」」
二カ所から雄叫びがあがる。一カ所は、手で顔を隠しうずくまる会長から、もう一カ所は砕けたお面から叫び終わったのか今はただの破片だ。
ほうきを持って田多良さんが破片を集めだす。
「どうだい? 会長さんは表情を変えられるかな?」
会長を見ると目を見開き、ポカーンとしている。
「あー、手鏡ないのか、みーちゃんは乙女の必需品は持っているかい?」
持ってないし、そんな必需品があるのは初耳だ。察せ。
「だっ、大丈夫です。 わかりますから……」
「じゃあ、なんで、表情をとられたのか教えてくれるかい?」
田多良さんがミルクココアを人数分出してくれる。
「祖父の葬儀が終わった後、遺品の整理をしていたんですけど、書斎をまかされまして、生前は誰も入ったことがなかったので気にはなっていたんですが入ったら机とあのお面しか置いてなくって綺麗なお面だなって思っていたらいつのまにかお面が私の顔になっていたんです……」
吸われた。私があのお面を見ていた時、秋嘉は分かっていたんだ。表情が吸われたことを。
そしてどうして、あのお面がなんであんなことをしたのかも。
「今更、話を聞いても問題は解決したんだ、会長さんの祖父共々大変だったな」
「やっぱり、祖父もだったんですか……」
やっぱりそうだったのか…… お祖父さんも無愛想だと聞いてそんな感じはしていた。死ぬまで表情が吸われたままだったのか……
会長が帰った後、私は気になったことを秋嘉に聞いた。
「なんで食べなかったの?」
秋嘉は妖怪を食べれる。そうしなければ生きていけないのだ。
「あれは、面霊気って言ってお面の付喪神なんだよ。 神を喰うってのは気が引けるしあいつには使い道があるからな」
そう言って集められているお面の破片を持って奥へと消えていった。
この話は秋嘉と私のこの世で起きた、この世の者じゃない奴らの話。