眼帯…？？

　今日は今年一番の猛暑日になるらしい、そんな天気予報の可愛らしいお姉さんが言っていたのを思い出した。俺は今、不気味な寒気に襲われている。

　この寒気の原因は分かっているのだ。先ほど届いた一通のメールだ。

『川村様からご依頼された件が片付きましたので御足労ですが、もう一度我が社に置いでください。』

　俺がこの探偵事務所に依頼を持ち込んだのは昨日、正確には昨日の午前11時27分。今の時刻が午前９時半過ぎ、まだ半日しかたっていないのだ。

　そんな簡単な依頼じゃなかったはずだ。俺は会社を経営している。最近は経営が赤字続きなのだ。秘密裏に進めていたプロジェクト内容もライバル社に先をこされた。認めたくなかったが我が社の誰かがプロジェクト内容をライバル社に流したそれしか考えられなかった。

　依頼内容は簡単に言えば『我が社のスパイを見つけて欲しい』だ。そんなに小さな会社じゃない、結構大きな会社だ。立派なビルだって所有している、数千人は社員がいるだろう。秘密裏に進めていたプロジェクトも数百人は関わっていたはずだ。

　その人数の中からスパイを見つけるのに半日しかかかっていない。不気味だ。恐いくらいに。

「社長、つきました」

　開けられたドアから降り、空を見上げる。肌を焼くような日射しが本当に猛暑だと教えてくれる。



「お待ちしておりました、川村様」

　探偵事務所があるテナントビルの二階に登るとドアの前で一人の少女が待っていてくれた。最初来たときは受付のアルバイトでもしているのかと思ったが違った。この子がこの探偵事務所の責任者なのだ。

　制服をきた女子高生だ、ただ顔、右目には眼帯がしてある。セーラー服に眼帯などミスマッチなはずなのにこの少女の独特の雰囲気のせいかそれとも雪みたいに真っ白な肌のせいかあるいはどっちもか、この少女には似合っていた。

「中はクーラが効いておりますのでお入りください」

　少女に促され中に入ると確かにクーラが聞いていた。真夏なのにこの事務所のメンバーはみんな長袖を着ている。寒すぎるのだ。この中で俺を含め半袖なのは少女くらいだ。

「こちらにおすわりください」

　促されソファーに座る。ソファーも冷えきっていた。

「美玲ちゃん、お茶と資料持ってきて」

「はいはーい」

　返事をした女のほうを見て私は目を奪われた。美しいただその一言だ。モデル嫌、ハリウッドで活躍している女優と言われても信じてしまうだろう。

「どーぞ」

　お茶が出されたことでずっと見ていたことに気づいてしまった。誤魔化すようにお茶を飲む、この時期にホットが出されてもイラっとこないのはここくらいなものだろう。

「まずは依頼の確認からさせていただきます、川村様の会社にいるスパイを探して欲しいとのことでしたね？」

　黙って頷く。

「早期解決がいいかと考えまして、早めに解決いたしました、こちらがスパイの名簿と各自の証拠になります」

　出された名簿に目をやる、知ってる名前ばかりだ。当たり前だと思われるかもしれないが違う、自慢になってしまうが俺の会社は大きい、平社員はともかく私が覚えている個人名は、幹部連中と秘書くらいなのだ。

　この名簿には６人乗っている。全員が幹部なのだ。

「制裁がお望みなら我が社で受け持ちますがいかがなさいますか？　追加料金がかかりますが……」

　落胆している俺にそう、少女は言ってくる、後ろの方で「呼んでないから寝てろ」と聞こえた。武闘派がいるのだろう。

「しかるべき処罰はこちらが行う、早期の解決感謝する」

　頭を下げ、顔をあげる接客スマイルなのだろうか、不気味な笑みをしている。その不気味さに少したじろくが料金を払って出ていくだけなので持ち直す。

「今回はいくらになるのだろうか？」

「そうですね、今回はそこまでかかりませんが200万でしょうか」

　秘書の持っているカバンから札束を２つ取り出し机におく。

「ちょうどある、確認してくれ」

「川村様を疑うことはいたしません、膨大な金額になってしまい申し訳ありませんでした」

「またなにかあったら頼む」

　俺はそう言ってこの事務所を後にする。外の暑さに少しクラっとしたが秘書がまわしてきた車に乗り込み早々に帰った。



　後日、スパイの処分を伝え終えこの件にひと段落していたところ、慌てた秘書に言われ、テレビをつけるとライバル社が倒産したことをニュースでやっていた。あのプロジェクトで儲けていた会社がだ。そのニュースに映った眼帯の少女を見て俺はまた、不気味な寒気に襲われた。