兄妹?

 女子の家にプリントを届けるならテンションも上がるんだろうが生憎、人生は都合良くいってないらしい。貴重な青春の一時を話したこともない不登校の家に訪問なんてしかもあいてが野郎だなんて。

 インターホンを押そうとしたとこで気づく既に玄関に誰かいるみたいだ。引き戸は開けっ放しで女性が立っているのが見える。

「すいません? 石未あー健二? くんご在宅ですか? 同じクラスの橋場 弘貴なんですけど」

 すがすがしいくらいの無視だ。じっと奥を見つめたまま動かない、耳にご病気でもあるのだろうか。

「お兄ちゃんならいないよ? 帰るの遅くなるって言ってた」

「妹さん?」

 襖を開けて顔だけを見せてる女の子は小学生だろうか、人見知りなのか俺から目線を外して明後日のほうを見ている。

「上がっていいよ」

 妹さんはそれだけを伝えて奥に行ってしまう。仕方ない上がって待つことにする。担任には学校に来るように説得もしろと言われているのでとりあえずは本人を待つことにする。

 妹さんのいる居間で待たせてもらう。知らない人が来てるせいか一言も喋らない、俺から話しかけるべきなんだろうか? 他人の家での沈黙ほど気まずいものはない。

「お兄ちゃん、いつ帰ってくるかわかる?」

 黙って首を横にふられた。

「玄関にいたのはお姉ちゃん? 美人さんだね?」

 黙って首を横に振られた。どうやら会話する気はないらしい、また後日来るのがいいかもしれない。

 黙って立ち上がった瞬間、携帯が鳴る。どうやら妹さんのがなったらしい。

「もしもし、うん……うん、わかった あっ」

 俺のこと伝えてくれてもいいのに。どうやら石未家には嫌われているらしい。

「お兄ちゃん遅くなるって……」

 少し落ち込んでいると妹ちゃんが話しかけてくれる。返事をしようとしたところで地響きとともに家が揺れる。妹ちゃんもビックリしたのか俺に抱きついてくる。抱きつかれたのと揺れでみっともなく尻餅をついてしまう。

 ふと玄関にいたお姉さんを思い出す。

 また、妹ちゃんの携帯が鳴る。今の地震で心配してかけてきたんだろうか、慌てて電話に出たためか携帯が外部スピーカーに切り替わる。

『おい、大丈夫か? 恐いと思うが家からでるなよ!? すぐ帰るから』

 焦っている声が聞こえたが尻餅を突きはしたがそんなたいした地震じゃなかった気がする。妹、思いなのだろうか?

 玄関からガラスがわれる音がする。先程の地震で何か壊れたんだろうか? だとすると先ほど玄関先にいたお姉さんがケガをしてるかもしれない。

「ちょっと、玄関見てくるから」

 立ち上がるとズボンの裾を妹ちゃんが引っ張ってくる。

「妹ちゃんはここにいてね?」

 そっと裾を掴まれていた手をほどき、玄関に向かう。

 玄関に行くと引き戸が外側に倒れていた。それを立って見ているお姉さんには、怪我はなさそうだ。

「大丈夫ですか?」

 お姉さんに話しかけるが返答はない。最初に会った時と違うのは目はこちらを見てること口は笑っているが目は笑っていない。

「あなたもなのね……」

 辛うじて聞こえた一言、意味はわからないが不気味なものがある。

「先に……あなたを殺るわ」

 殺る、脳内での漢字変換はすぐに出てきた。殺気をあてられるとはこのことなのだろう。目が逝っている。

「あっあの?」

 目の前のお姉さんに恐怖してると後ろから、妹ちゃんが顔を出してくる。

「いた……」

 先程までジッと俺を見ていたお姉さんがターゲットを妹ちゃんに変える。お姉さんと目が合った妹ちゃんは身体をびくっと反応させる。

 姉妹喧嘩の最中だろうかギスギスした空気が伝わってくる。

 お姉さんが妹ちゃんの肩を突き飛ばす。転んでしまう妹ちゃんのポッケから携帯が落ちる。

 落ちた携帯が鳴る。多分健二からだ、急いで拾い電話に出る。

『おいっ、もうすぐそっち着くけど大丈夫か?』

「いや、それが姉妹で喧嘩始めちゃって!」

『お前、誰だ?』

「あっ、いや、同じクラスの……いや。そんなことより! お前んちの姉妹喧嘩いつもこんな感じなのか?」

『姉妹? うちは妹と俺の2人兄妹だぞ? おい誰か居んのか?』

 信じられない話に携帯を落とす。

 来た時から玄関にいたこの女性は一体誰なんだ? なんでここにいた? なんで?

「ふふふふふふふふふふふふふふふふ、やっと叶う! やっと! やっと!」

 今までぼそぼそ喋っていた女性が狂ったように、叫び出す。

 妹ちゃんに馬乗りになり手は首を絞めていく、助けたいのに身体が動かない。

 家には女の高い笑い声と妹ちゃんの声にもならない声が聞こえてくる。

 自分の息遣いが荒くなっていくのが分かる。恐怖で呼吸が苦しくなっていく。

 誰か助けてくれこの場にいたくない。誰か。

 俺の横を風が通り過ぎていく、通り過ぎた直後に何かがぶつかった音がする。顔を上げると女が壁に衝突している。その横には一人の男とその男に抱きかかえられた妹ちゃんが立っていた。

「俺の大事な妹に手を出したんだから覚悟は出来てんだろうな!?」