オカルト屋

 夕暮れの日が沈む時間、住宅街に下駄の音が響く。

 軽い足取りで、カランコロンカランコロン住宅街にこだまする。

「歩きにくいわー 下駄」

「じゃあ、なんで履いていんの?」

「妖怪とか霊退治って言ったら、下駄とちゃんちゃんこは必須でしょ」

 ジャージ姿に下駄という変な格好の青年と着物にリュックサックと言ったこちらも変な格好の女性、住宅街の住人たちの目をひくには十分すぎる格好だ。

「麗治まだつかないの?」

「もう少しー」

 麗治は、紙の切れ端を見ながら軽快に下駄を鳴らす。

 ピタッと音がやみ、一軒の家に立ち止まる。おもむろにインターホンを鳴らしその家に入っていく。

「すいませーん、オカルト屋ですけど?」

 奥から、綺麗な服を着た女性が出てくる。服は綺麗だが顔はやつれひどく青ざめている。

「……オカルト屋? た、頼んだ覚えございませんけど?」

 困った表情をする女性にたいし、麗治はニコニコ、笑顔を絶やさない。

「あっ、ご依頼された方ですね?」

 女性の言葉とは食い違った発言をする麗治に、女性はますます顔を青くする。

「大丈夫ですよ? ちゃんと祓いますから」

 麗治がそう言った途端、突然の客人を拒むように家が震え出す。窓が割れ、割れたガラスが麗治に向かって飛んでくる、まるで誰かに投げられたかのように。

 飛んできた破片を着物を着た女性が叩き落とす。

「ありがとう、美夜」

 美夜は持っていた撥をしまいリュックをあけ、三つの部品を組み立出す。

「ふー危なかったー 危険なんでさっさと御祓いすませちゃいますね?」

 麗治が言い終わると同時に、家中に三味線の音が響きわたる。

 心地いいがどこか悲しい音色が響き、徐々に家の振動がよわくなる。先程まで困惑していた女性も落ち着いた表情をしだした。

「台所だね」

 美夜がぼそっと言う、それを聞いた麗治が下駄を脱ぎずかずかと上がる。

 先程まで困った表情を浮かべていた、女性は気にした様子もなく、麗治に道を譲る。

「立派な一枚板だね」

 一枚板でできた、調理台は綺麗に磨かれ輝いていた。

「元は立派な神社の御神木様だったんだね」

 一枚板を撫でながら、何かに優しく語りかけている。玄関からは美夜が弾く三味線の音が心地よく響く。

「そっか、待ち人が来る前に神木切られちゃったんだ? 大丈夫、大丈夫あっちで会えるから」

 揺れもおさまり、美夜の三味線の音も止む。

「ご依頼は達成しましたよ?」

「あの、ありがたいんですが、やっぱり依頼した記憶が……」

「依頼主はあなたの守護霊ですよ」



 住宅街には軽快な下駄の音が鳴り響く。