夏の体験

 あれは去年の8月16日、この日は今年最高となる猛暑を記録した日でした。

 一週間前くらいから暑かったので、高校の友達数名と海に行くことになりました。


 会うのは卒業式以来だったので、集合場所の駅前ですでに話に花がさきました。

 電車で向かうはずだったのですが車できた奴がいたので免許を持ってる奴らで交代しながら運転して行くことになりました。

 行く前に俺の買ったばかりのデジカメで出発前の集合写真を撮りました。

 くだらないことで笑いあいながら海に向かいました。

 ジャンケンで勝った俺は、後部座席に座り免許の持ってないN子と談笑しながら海までの道のりを楽しんでいた。

 海につくと運転してた奴らが疲れてるのもあって、運転しなかった俺と免許を持っていなかったN子が場所取り、あとのメンバーは車で仮眠をとってから合流という形になった。

パラソルを2本海の家から借りて、場所も簡単にとることができた。

「あいつ等、疲れてるんだろうな多分、昼すぎまで寝るんじゃないか?」

「そうだね、みんな寝ないで運転する人に付き添ってたもんね」

 みんな、来るのが遅いので防波堤から海に下りてくる階段のほうを何度も確認する。


 何時間たったのだろうか、気持ちいい海風のおかげで俺も寝てしまったようで目をあけるとN子と目があった。

「やっと起きた、もうみんな泳いでるよ」

 N子にそういわれ、海のほうを見ると車で仮眠をとってた奴らが深瀬のとこで遊んでいた。

「Aくんもこっちで遊ぼうよ!」

 隣りのN子の言い方が少し気になったが、寝起きだったのであまり気にせず海へと向かった。

 砂浜を歩いていると少しおかしな感じがした。

 先ほどパラソルを借りたお店もある、海で遊んでいた人達もいる。

 何が違うのか、自分でもわからないが何かが違うのは確かだった。

 おかしいなと思い、キョロキョロとあたりを確認してしまう。

 後ろを確認してみると、防波堤からおりてくる階段の下に坊主頭の白いTシャツに短パンの男が何やらブツクサ口を動かしているのが見えた。

 そして俺は気づいてしまった。

 俺以外、無表情なのだ。

 先ほどから感じていた違和感は先ほどまであんなに楽しそうに笑っていた人達が一切笑わないで海で遊んでいるからだ。

「N子、みんなおかしい、逃げよう」

 N子の腕をつかんで防波堤を目指して走りました。

 後ろを一切振り向かないで走ったのですが、明らかに俺が見ていた人数より多くの人間の視線を感じました。

 必死に走り、防波堤の階段まできたいのですが、あの男がいたことをすっかり忘れていたんです。

 強引にいくしかないと思い、少しスピードをあげたんました。

 男の横を通り過ぎた瞬間、N子がピッタっと立ち止まったんです。

「はやく! 行くぞ」

 N子にそう呼びかけるのですがN子は俯いたまま動こうとしないんです。

「おい、N子!?」

 N子に近づいて、腕を引っ張ろうとしたらN子も何か言ってることに気づいたんです。

「N子??」

 N子が何を言ってるのか聞こうと顔近づけた瞬間、顔を上げて

「また邪魔された!!!!!!」

 先ほどまであんなにおしとやかだったN子が、すごい剣幕だったことにびっくりしてみっともなく、尻餅をついてしまいました。

 立ち上がって逃げたかったのですがなぜだか動けませんでした。
 腰が抜けた状態とはまた違いました。

 ふっと男のほうを見ると男はニコッと笑うと会釈をしてくれました。



 気づいたら、病院のベットの上でした。

 問診にきてくれたお医者さんはに聞くと浜辺で倒れていたそうです。

 暑さで変な夢を見たんだと思い、海に一緒に行った友達に連絡をしてみると

「海? 今日は俺、仕事だったけど」

 そう言われ急いで病室に戻って、出発前に撮った写真を確認しました。

 そこには、風景も何もない真っ白な場所で1人でピースをしている俺が写ってました。

 あとで確認をしたのですが、N子という高校時代の友達はいませんでした。

 N子とは何だったのでしょうか、そしてあの男は何者だったのでしょうか。