ゆうしゃ

 焼けるように赤い空が見えた。

 その空に向けてかざした掌も、燃えるような赤に染まっていた。

 さきほどまで神経をつんざいていた痛覚が薄れている。心なしか身体に暖かさも感じる。それらは幻覚錯覚の類ではないのだがしかし、自身の身体が鳴らす警鐘だということに少年は気付かなかった。

 否、気付く余裕がなかったと言ったほうが正しい。

 指の隙間から見える影──上空を旋回する巨龍の姿が、少年の正常な思考を阻害する。

 身体を鎮めた赤い水たまりは、自分の血液だということに気付けない。痛覚が薄れていくとともに、四肢に力が入らなくなっているということに気付けない。このまま自分が死してしまうかもしれないということにも、気付けなかった。

 遠方遥か上空。巨龍が問う。

『死が、恐くはないのか』

 それに対する少年の答は、言葉ではなかった。

 血だまりに沈めていた身体を起こし震える膝を押えて立ち上がり、側に転がっていた大剣を杖にして直立する。そして咆哮。感情だけを乗せた雄叫びが大気を震撼させた。

 その叫び声から全てを読み取った巨龍は、静かに言う。

 
『──ならば抗え。最期まで』


 直後、焼けるように赤い空から落ち始める白。

 雪のようなその白を視界の端々に捉えながら、少年は再び血だまりに倒れ込んだ。