がんたい MBS
「……はぐれたぜ」
瑠可は腰に手をあて、ため息交じりに呟いた。
アイパッチで覆った左目をぱしりと叩く。
同居人の永士と家を飛び出したまでは良かったのだが、勢い余ってはぐれてしまった。連絡を取ろうにも、あいにくながらスマートフォンは自宅に置きっぱなし。
歩き回って探そうかとも思ったが、瑠可は目の前に広がる光景を見てすぐに無理だと悟った。
五月一日。
水曜日。
晴れ。
平日。とはいうものの、今日が休みの人間なんて世間には五万といるわけで、谷の平日に休暇を取って休みを繋げられる人もいるわけで。つまるところ四月二十七日から五月六日までの大型連休を謳歌する人々もいるというわけである。
目の前を行き交う人、人、人。
服装、持ち物、挙動を見るに、連休を利用してここを訪れている観光客であることは容易に察しがつく。
エリア東京・シーフロント。
それがこの都市の名称である。
海上に存在するエリア東京・シーフロントは十二区・四エリアからなる新都市で、商業施設やレジャー施設も整っており、解放されたばかりということもあって足を運ぶ人々の数も過多だ。
瑠可が今いるのは四つあるエリアの内、最もひと気がないと言われるビジネス街の一角なのだが、そんな所でも人で溢れかえっている。
「──お嬢さん」
不意にぽんぽん、と肩を叩かれ、瑠可は首だけ動かしてそちらを見た。
四十前後の中年男。
白のワイシャツにチノパンツといった格好。観光客だろうかと思うもそれも一瞬。中年男の顔面半分が唐突に崩れ落ちた。そしてニタリと笑って呟く。
「見 い つ け た」
瞬間、足元のコンクリートが爆ぜた。
瑠可が蹴り足でコンクリートを砕き、その勢いで距離を取ったのだ。
身を翻して宙を舞った瑠可は両足で大げさな音を立てながら着地し、中年男を視界に捉えながら肩を払う。
「ふん。出やがったな仮面」
中年男の顔面半分が、丸みを帯びた鏡面のようになっている。
「頼むから、儂に本気を出させんなよ」
アイパッチを親指で指しながら、瑠可は不敵に笑った。