ヴァルハラ・ヴァルフレアA

 アルヴィンス・ガザ。

 という男を語るに外せないことがあるとすれば、それは、彼が持つ目的の特異性において他にない。

 金髪隻眼。二メートル級の大柄な身体にひけを取らない大剣を携え、夜よりも深い真っ黒な外套を身に纏う。といった身体的外見的特徴もあるにはあるが、しかし、そんなものは暫定的な在り方でしかないのである。

 暫定的。

 かく言う僕──ロビン・ウォルタナという自分自身、個々人を話の引き合いに出したとしても、それは例外ではない。僕が銀色の髪をしていて、銀の軽鎧を着ていて──という特徴も、もしかすると既に過去の話なのかもしれない。過去の話だと思われる。いや、実質的に過去の話なのだ。

 生まれ持った髪の色はともかくとして、鎧は燃えて、燃え尽きた。

 今は衣類の軽装で、首には口元を隠すための布を巻いている。変装というか隠密というか、諸事情あってこのような格好になっているといった次第であるが、それはまた別の話。

 アルヴィンス・ガザ。

 そう、アルヴィンス・ガザの話である。

 僕が彼と出会ったのは、閉ざされた黒い独居房の中だ。アルヴィンスは、僕が牢にぶちこまれる百年以上も前からそこにいたらしい。隣の独居房。もっとも、アルヴィンスが入っていた牢は白の独居房ではあるが、とにかく僕たちはそこで出会った。

 戦人。

 彼を外見だけで形容するなら、その一言で事足りる。

 しかし内面。

 彼が内包する感情や信条や理念や信念を開示すると、戦人と表現するのは、いささかどころか、まったくもって場違いで的外れで浅はかだということを思い知る。外見とは、なんて暫定的なものなのかと思い知らされる。

 なんて言うと、まるでアルヴィンスが、世界の理を知っているかのような──ともすれば本質を見極めることができる慧眼の持ち主であるかのような、そんな誤解を招いてしまいかねない。むしろ招いてしまう。

 招いてしまったからこそ。

 アルヴィンスは白の独居房にいたのだった。

 彼は言った。

 すべてのことは普遍的でありながら、流動的であるからこそ決まった形などない。だから暫定的。もしもすべてのことに型枠があったとすれば、世界には何も残らない。と。

 すべてを見透かしているかのように、そう言った。

 ただ、揺るがない──変わらない。不滅的なものが一つだけある。とも言っていた。

 それを語るには百年以上も前の話を。アルヴィンス・ガザの一度目の生の話をしなくてはならない。彼が持つ特異な目的の根源がある過去の開示。

 遡れば一世紀。彼が放浪の傭兵だった時代の話。賢者と誤認されていた時の、ただの昔話をこれからしようと思う──。