しょうかんじゅう

「であるからして、お前のような小僧が、なぜ妾を呼び出すことができたのか不明じゃ。不可解じゃ。府に落ちん」

 と、不機嫌そうに言われても、呼び出せてしまっているのだから説明の仕様がない。

 目の前で腕を組んでふんぞり返っている幼女を見ながら、バジルは椅子に座り直して苦笑した。

 銀髪吊り目という風貌も助けてか、幼女の言葉には少し棘がある。

 彼女いわく、「今は無き第五世界の竜王とは妾のことだ!」とのことだから、それを鵜呑みにすれば高慢ちきな態度には納得がいくのだけれど、傍目十歳くらいの女の子が、全世界から破壊神と恐れられていた竜王とは俄かに信じがたい。信じがたいし、もしも彼女の言うことが本当だとしても、今度はそんな大それた者を呼び出してしまった自分が嘘くさい。

 神撃のジルベルン。

 それが全世界を震え上がらせていた彼女の、竜王の名だ。

 強靭な翼で空を駆け、携えた邪爪で大地を切裂き、吐き出す火焔は全てを焼き払う。

 竜王が住まう第五世界は、五十年前に滅んでいる。

 それと共に竜王の存在は消滅してしまったはずなのだが、バジルが学園の授業で選択している召喚学・二Bで得た召喚術の術式が誤作動を起こしてしまったらしい。どうやら、時間を遡って竜王を召喚するに至ったようなのだ。

 とはいうものの、彼女の姿かたちは話に聞く竜王とは全く違うから、話半分で対応しているというのがバジルの現状だった。

 しかしよくよく考えれば大変な状況だ。

 中身はどうあれ、一人暮らしの男の部屋に幼い女の子がいる。

 バジルの部屋はトイレバス付のワンルームではあるが、学園が運営する学生寮。

 これでもしも級友や教師が来訪した場合、言い訳の仕様もなく犯罪者と罵られることは明白で。あまつさえそれだけでも心臓に悪いのに、一月前まで空いていた隣の部屋にはいつの間にか新しい住人が入居していて、あまり大きな声が出せない。

 自室なのに気を遣わなければならないのも妙な話だ。

 とにかく、いつまでもこのままではいけないとバジルは思っている。話半分なりに彼女の、自称竜王のジルベルンの望みを早急に叶え、契約を終わらせなくては。

 第五世界を滅ぼした者を見つけ出す、という彼女の望みを。

「して、どうなのだ?」

「? どうって?」

「妾の世界を滅ぼした輩は見つかったのかと聞いているのだ、このたわけがっ!」

 突き出したジルベルンの人差し指で頬をグニっとされた。

「……調査中でふ」

「役立たずっ!」

 そうは言っても滅んだあとの世界、つまり第五世界消滅五十年後の今でさえも明確な情報は少ない。

 しかし仮に第五世界を滅ぼした者が見つかったとして、彼女は一体どうするのか?

「知れたこと。ごめんなさいって言うまで殺すのをやめない」

「しれっと言ったね。いまサラリと凄いこと言ったね」

「ごめんなさいと言われても、うっかり手が滑ってオーバーキルしてしまうやもしれんがの。はっはっは」

「殺す気まんまんじゃないすか!」

 それも仕方がないと言ったら仕方がないのかもしれない。

 世界の終わり。

 それは全ての終わりでもある。

 いまこの場にいるジルベルンは世界消滅を迎える前の存在だが、自分の居場所がなくなるという事実を聞いて動かない理由は無い。

 守るべき場所があるのだろう。愛するべき家族がいるのだろう。

 たとえ彼女が竜王であったとしても、人外であるのだとしても、否定してはならない大切なものというのはたくさんある。

「止めないんじゃの」

 止めはしないよ、とバジルは小さく言う。

「でも、これだけは言わせてほしいんだけど……」

「うん?」

「服は着ようよ」

「お前が召喚し忘れるのが悪いのじゃ、このロリコンめっ!」