スカイ・ロア
夕闇が迫る藍色の空を、白が横切った。
やや細長い菱形流線型の機体から伸びた六枚のフォトン翼が空気を弾き、光の尾を残して超高速で空を飛ぶ。
飛行の様から〈蜻蛉〉と形容されるこの機体、〈MADO\frame‐first〉は最強の戦闘兵器である。機体は全部で十機あり、それぞれが個別性能に特化した一点物(ワンオフ)。有するスペックは他の追随を許さない。
その内の一つ、七番機ブラン・エフェメラル。
光沢の無い白で埋め尽くされたシリーズ最速の飛行速度を誇る機体は、文字通り他の追随を許さない。
最高速で飛び続けた。
完全に振り切った。
追跡できるわけがない。
──しかし、それらはもう、過去の話だった。
突如として凄まじい炸裂音が鳴り響き、空に激震が走った。
ブラン・エフェメラルの機体にぐるりと帯状に張り巡らされ、埋め込まれた複数のナノカメラ・アイが後方の映像を捉える。
上層風によって流れていく黒煙。その隙間から覗く深い深い黒。
視える。
黒銀が。黒銀の人型機体が。
追い付かれていた事に驚く暇など無かった。
高速飛行時の映像を見落とすことなく捉えるブラン・エフェメラルの動体視力はあらゆる瞬間を見定める。黒銀機体がランチャーのトリガーを引き、再び放ったクラスターミサイルが炸裂する、その刹那でさえも。
六枚翼が空を弾く。白の機体が旋回する。光の尾が横に薙がれる。通り過ぎていく爆風すらも超高速で躱し、一足に数百メートルの距離を開け、続けざまに放たれる弾幕すらも躱して躱して潜り抜ける。そして一瞬にして相手の懐に潜り込んだ。
ここが領域。
──斬る。
ブラン・エフェメラルが有する明確な個別武装は、遠距離系で言えば小型電磁加速ユニットによるレールガンのみ。その唯一の武装でさえも牽制的な使用しかしない。
斬撃による接近戦を得意とする白い機体は、単なる機動力であるはずのフォトン翼を、まるで刀のように振り抜く。高エネルギーで出力される強靭な刃を。
一閃。
すれ違いざまに振り抜いた刃は金属を切裂き、標的を撃墜した。──しかし、墜ちたのは白い機体の方だった。
断線した内部回路がショートし、電光を撒き散らす。
機動力であるフォトンの噴射口を潰され、ブラン・エフェメラルは夕闇の中を墜落する。
複数のナノカメラ・アイが捉える黒銀の人型機体〈MADO\frame‐next〉。量産型であるはずの機体は、最強の先代を見下ろしながら言う。
『あんたらの伝説は、既に過去なんだよ』
他の追随を許さない。最強の機体シリーズ。
しかし、それらはもう────
過去の話なのだ。