眼鏡
「はい、次の方」
「あい」
「えーっと、二年三組出席番号五番、サナダオツタロウさんですね。そこの線の前に立ってください」
「あい」
「これで片目を隠してください。私が指示棒で指していきますので、それに沿ってお答えください」
「あい」
「はい、じゃあ一番下からいきましょう。これは?」
「Cです」
「…………はい?」
「Cです」
「……じゃあ、これは?」
「逆Cです」
「…………これは?」
「下Cです」
「…………えっと……サナダさん、これそういう競技じゃないんですよCの向きを当てる選手権みたいな。視力検査ですからね、ただの」
「!」
「いや、そんな目から鱗みたいな顔されましても」
「お前……まさか組織の専門医か」
「学校の保険医です」
「お前らはいつだってそうだ。そうやって俺を騙して研究を続ける気なんだろ」
「あれ? 話聞いてます?」
「くそ……! 去年のデータが記されたカードを渡された時から、俺はお前らの策略に嵌まっていたわけか」
「すいません。お話聞いてます?」
「あの時だって……お前らが持っているイヤホン付の吸盤みたいな器具が、俺たちにどれだけ悪影響を及ぼしているのか……」
「……」
「その器具が発する超振動が、どれだけ俺たちの身体を蝕んでいるのか……」
「……」
「結果、その超振動に耐え切れず死んでいく仲間たち。どれだけ悲しみの連鎖を生んでいるのか……知らねえわけじゃねえんだろ!」
「いや知らねえよ!! これおまあれ健康診断よ!? 年に一度の健康診断よ!? それをなに、健康診断で悲しみの連鎖が広がったらお前そんなんパンデミックだよバカヤロォオ!」
「つ、いに本性を現しやがったなマッドサイエンティスト!」
「違うからね! 私、科学者じゃないからねまず!」
「畜生! 眼鏡さえあれば! 眼鏡さえ取り戻すことができれば……俺は!」
「お前眼鏡使ってたんかいいい! そんで頭に眼鏡乗ってるから、グラサンみたいに乗ってるからね! というか、もしかしてさっきの見えてなかったの? 本当に見えてなかったの? そうだとしたら心の底から謝るわゴメン」
「そこにあったか眼鏡ぇえ!」
「これで見えるよね!? 検査再開できるよね!?」
「眼鏡粉砕リミッター解除ぉおおおお!!」
「えええええええええええええええええ握り潰したえええええええええええええ!!!?」
「こんな曇り切ったレンズなんていらねえ……俺は、俺の肉眼で見た景色しか、信じねえ!」
「曇ってんのはお前の肉眼の方だよ!」
「何も見えなくたっていい……何も見えなくなったっていい……俺には、確かに見えてるものがあるから……心にかけたレンズがあるから! だから、汚物のようなギャルJKを殲滅するその日まで、殺られるわけにはいかないんだ!」
「とんだ色眼鏡だったよおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
検査結果
サナダオツタロウ
視力右:測定不能
左:測定不能
総評
要再検査