一、残光
追い付かれていた事に驚く暇など無かった。黒銀機体の次の挙動が始まる。
高速飛行時の映像を見落とすことなく捉えるブラン・エフェメラルの動体視力はあらゆる瞬間を見極める。黒銀機体がランチャーから再び射出されたクラスターミサイルが炸裂する、その刹那でさえも。
白が動く。六枚翼が空を弾く。光の尾を横に薙ぎ、機体が旋回。通り過ぎていく爆風を紙一重で躱し、一足に数十メートルの距離を開け、続けざまに殺到する弾幕すらも躱して躱して潜り抜ける。そして一瞬にして相手の懐に潜り込んだ。
ここが領域。
──斬る。
ブラン・エフェメラルが有する明確な個別兵装は、遠距離系で言えば小型電磁加速ユニットによるレールガンのみ。その唯一の武装でさえも牽制的な使用しかしない。
斬撃による接近戦を得意とする白い機体は、単なる機動力であるはずのフォトン翼を、まるで刀のように振り抜く。高エネルギーで出力される強靭な刃を。
一閃。
か細い。しかし鋭い斬撃音が木霊する。
すれ違いざまに振り抜いた刃が金属を切裂き、標的を撃墜したのだ。──だが、墜ちたのは白い機体の方だった。
断線した内部回路がショートし、電光を撒き散らす。
数百もの斬撃をまともに受けてしまった機体は規定の耐久限界を超え、システムフリーズ。
斬撃音は一つであったはずだ。見落とす訳がない。見逃す訳もないはずだった。
──有り、得ない……!
機動力であるフォトンの噴射口を潰され、ブラン・エフェメラルは夕闇の中を墜落する。
複数のナノカメラ・アイが捉える黒銀の人型機体〈MADO\frame‐next〉。