第二章

「恋人を別れさせるチカラなんてもってるやつが、恋人なんて作れない。……って?」

 岡野の問いの真意を突くようにして、梶宮がぼそりと言う。

「できたとしても、妬みは買うだろうな」

「もしかすると、天界からも追われることになる」

「となれば、女を巻き込むことになる」

 否定的な意見が、二人の口をついてでる。

 しかし現実、キューピットの堕天使が恋を実らせるのは、それだけ難しいことでもあった。

 その成功を同じ堕天使が望むことも、同様に難しい。彼らは嫉妬に生きる存在だからだ。

「さっさと定住して、カップルが別れるジンクスでも作っちまえばよかったんだ。白鳥ボートでも観覧車でも、場所ならどこでもあるだろうによぉ」

「……そうしてれば、出会わなかったと?」

「さてね。運命の出会いってのが存在するのは、お前だって知ってるだろ」

 梶宮が顔をあげる。対する岡野は、もう一度座りなおして座面から手を放す。

 視線は交わらない。それぞれ、自分の正面に目を向けていた。

「手、出さないでいてくれますか、先輩」

「先輩どもには口きいといてやるよ、梶宮。堕天使の希望の星にでも、かませ犬にでもなってこい」

 ぶっきらぼうに言う岡野に、梶宮は苦笑で返す。未熟な感情を抱え込んでねじまがった堕天使の、精一杯の妥協案なのだろう。

 梶宮が成功すれば、自分たちにも希望がある──岡野がそう言って他の堕天使を言いくるめるであろうことは目に見えていた。

 で、と言って、岡野はようやく梶宮の方に視線を向ける。

「女の名前は?」

「…………」

 沈黙。