第二章
休日の人気テーマパークとなれば、人の数はいっそ暴力的だ。
アトラクションはほとんどが一時間待ち。パレードが通るとなれば、場所取りからしなければマトモに楽しむことはできない。土産店も飲食店も空くタイミングはなし。それでも客の表情が明るいのは、テーマパークの隅々まで徹底された、非日常的な雰囲気の影響だろうか。
──そんな中でも、例外的な、ごく日常的な空気を放つ二人組がひとつ。
「へぇ、つまり、お前は、地に堕ちるだけじゃあ飽きたらず、恋にまで落ちた、と。なるほど」
半眼で嫌味ったらしく言う男のとなりで、梶宮は頭を抱えていた。テーマパークにいながら男二人が並んでベンチに座り、誰を待つでもなくグダグダと話している様は、よく見れば浮いているはずなのだがほとんどの人間が気にしていない。
非日常的空間の中で、他人に興味を向けることがほとんどないからだろう。背景に同化するようにして、二人組は会話を続ける。
「はっはー、そうかー行く先はリア充かー。カシミヤのくせに生意気だぞ爆発しろ」
「カジミヤです」
「うるせー爆発しろ。爆発して爆発したうえで、もう一回爆発してさらに爆発して最終的に爆発しろ」
「アンタ爆発しろって言いたいだけだよなぁ!!」
「誰のせいだよカシミヤ」
「…………」
なにも言い返せない梶宮に対して、となりの男は重くため息を吐く。
男の名は岡野。梶宮の先輩にあたる先々代の日本地区担当キューピットであり、現在は堕天使。因果をねじまげてテーマパークに住みつき、目につくカップルを別れさせながらヒマを潰す生活をしている。