Scene.2 仮面と仮面
「失礼。そう思われても仕方のない言い方だった。そうだね、私は──」
言いながら、オクルスはソファに戻る。
手には、湯気のたつティーカップの載ったトレー。それぞれ、金の装飾で彩られた瀟洒な造りで、この部屋によく似合っていた。
「魔法使い、と言うべきかな」
「胡散臭いという意味では、それで間違いないと思うけれど」
「レディに褒められると、さすがの私でも照れてしまうよ」
だらしなく口元を緩めながら、オクルスは私の前にティーカップを置いた。
褒めてない、と言いかけた呼気はため息に変えて、私は紅茶を口に運ぶ。どのような原理で淹れているのか分からないが、確かに紅茶の香りと味がする。
外を歩いて冷えた体に、暖かい紅茶の温度が浸透していく。目の前の仮面男が淹れたのでなければ、感謝してしまうところだった。
ティーカップから口を離して、一息。
「まぁ、実際に魔法のようなものは見せてもらっているから、多少は信じてもいい」
私はオクルスに見せるように、軽くカップを持ちあげた。
さきほどオクルスが使っていた棚に、紅茶を淹れられそうなものは見当たらない。
どころか、この部屋には生活感というものがない。
ただ豪華な家具が置かれているだけ。雰囲気としては、展示場や資料館の方が近い部屋だった。
「レディが私を選んでくれたら、もっとたくさんの魔法をレディのために使うとも」
「あなたを選ぶって?」
ソファに座り、優雅に──腹立たしいことに小指を立てて──紅茶を一口飲んだオクルスは、唯一露わになった口元で笑みを作る。
「私の仮面を、と言うべきかな」
「……」
赤い仮面。
私の理性を弱めるそれは、上着の内ポケットに収まっている。
「この世界はレディの魅力を半減、どころかゼロにしている。私を選んでくれれば、私の仮面は魅力を最大限に引き出すだろう。──もう、君も実感しているのではないかね?」
「あれを魅力と言うのもどうかと思うけど」
人間として、という言葉を付け足すのはやめておいた。
「苦しさを感じるかね」
男の仮面の奥で、見えもしない目が光ったように感じた。
その瞳がどこを向いているかなど分かるはずもないのに、私の全てを観察し、見透かしているようだった。
「殺人に、命を奪うことに痛みと悔いを抱くなら、私とて無理強いはしないつもりだよ。引き際ならわきまえているのでね」
「私の口を封じて、また誰かに仮面を渡す?」
「……ふむ、口封じか」