そして声をかける。

「あの……」

 それに気付いたパーカーの女子はびくりと肩を震わせ、読んでいた本を放り投げて一目散にその場から逃げだした。

「! ちょ──」

 ──っと待って、という間もなく六呂師は後を追う。

 この建物は割と広い。

 構造としては食料品・日用品・雑貨といった基本的な品を揃えたスーパーマーケットと、全国チェーンの書店がまるまる一店舗入った町内最大の建物である。

 とはいってもスーパーと書店は分かり易く区切られているし、通路も入り組んではいない。

 パーカーの女の子は直近の角を曲がって姿を眩ませたようだが、外に向かっているのだとすれば、道だては簡単だ。

 六呂師は書店の中央通路を走り抜け途中で左折。一〇〇円セールの山積みワゴンの間を通過して──パーカーの女の子の背中が見えた──勢いそのまま書店を飛び出した。

 飛び出した先は建物裏の駐車場スペース。

 六呂師は、膝に手を付いて息を切らす女の子に近付き、息を整えながら声をかける。

「ちょっと待ってよ。逃げるなんて、ひどい、じゃん」

 対してその女の子は、

「誰、ですか……?」

 あなたは、誰ですか、と息も切れ切れに言う。

「六呂師。六呂師司、だよ。御所野高校二年E組の、クラスメイト」

 緊急時、学生という身分と制服というツールは便利なものだ。いついかなる時も、とりあえずの身分証明として機能するからである。