突拍子のないことを言われ、馬鹿らしくなったのか、彼女は踵を返して立ち去ろうとする。立ち去ろうとした。

 しかし、できなかった。

 足の裏が地面に張り付いて動くことができなかった。

「……!」

 というよりも、もっと根本的に。

 当夜坂凜子は自身の身体を動かすことができなくなっていた。

『ああ、悪いね』

 水上は気軽な調子でいった。

『ちょっとの間、君を動けなくさせてもらった』

 そして目を剥く当夜坂凜子をよそに、この現象の正体を告げる。

『封印系言霊属性の魔法をかけた。学校の授業で習うだろう? カーズ(呪い)だよ、カーズ。発動条件が揃っちゃったんだよ。無言で不動な当夜坂凜子ちゃん』

 現段階で君は、喋る以外のコマンドを実行することができない。と水上は言う。

『理不尽だろう? でも解くのはすごーく簡単だ。喋ればいいんだよ。言葉を。体現することによって表面化するんだ』

「…………何を……言えば」

『何を言えばいいか分からないって? おいおい、冗談はよして欲しいね。望めばいいじゃないか。君はどうあって、どうありたいのか。何が違って、何を正したいのか』

 どうありたいのか。

 違いを、正して。

「……私は」

『言いよどむなよ。それとも言って欲しいのかな?』

「……私は……私は────こんな私、私じゃない……!」

 当夜坂凜子が言った、その直後だった。

 張りつめた線が切れるようなか細い音がすると同時、彼女の身体が前のめりになって倒れ始める。

 それに気付いた六呂師が彼女の身体を抱きとめて支え、勢いを殺すように膝を折った。