第四章
水の音がして視線を動かすと、ちょうど御堂がコップに水を注いでいるところだった。
「三日は眠ってたよ」
考える素振りもなく、御堂は応えてヴィオレの口元にコップを差し出した。これだけ体が動かないのは久々のことで、思い返せば五年前、ハイジアになるための手術後以来なのではないだろうか。それどころか、御堂への「暴行」もヴィオレからすれば昨日のことだ。
気まずさは当然残ってはいる。けれど、喉の渇きには耐えられない。
「なに、浅間はさほど変わってない。中層の壁に開いた穴はハイジアの警護付きで修復作業が進んでいるし、微振動を探知するセンサーも内壁カメラに接続されることになった──今回のペストがレアケースでないとも限らないからな」
喉を潤している間、なにも引きずっていなさそうなレゾンの解説がヴィオレの気まずさを紛らわせた。
それも一時的で、ヴィオレがコップを空にしたあと口元まで拭く御堂のかいがいしさに、じわじわと罪悪感が湧きあがる。
言い訳ならば、わざわざ指を折るまでもなく、いくらでも思いつく。ただし、言い訳した程度でどうにかなるような性質の罪悪感ではないことも、ヴィオレは理解していた。
「……ごめんね」
「うん。僕も、ごめん」
ぎこちない謝罪が、二人の間を往復した。
しばらく間を置いて、御堂はヴィオレの方へ手をのばす。一度拒絶されたにも関わらずためらいも迷いもなく、まっすぐな動きで紫の髪へ近づいてくるのを、ヴィオレはじっと見つめ続けた。
これはきっと仲直りで、新しく関係を築き直していくことになるのだろう。